「新たな日常」スタート遠のく 感染者急増の北九州市民はいま

by

 新型コロナウイルスの感染者が急増する北九州市。29日も新たに26人の感染が判明し、感染確認は7日連続となった。福岡県などに出されていた緊急事態宣言の解除から2週間が過ぎ、週明けの6月を「新たな日常」のスタートと捉えてきた市民の不安は日ごとに増している。

「元通りの授業楽しみしてたのに」

 北九州市では25日から午前中のみで小中学校などの授業がようやく再開した。週明けの6月1日からは給食や午後の授業も始まる予定だったが、感染者の急増を受け当面は午前のみの授業が続くことになった。

 小倉北区のパート事務、天久企誉加(あめくきよか)さん(38)は毎朝、小学2年の長男(7)と夫婦の計3人分の弁当を作って出勤し、昼休みに一旦帰宅。午前授業を終えて帰ってきた長男と一緒に弁当を食べてから再び仕事に戻り、学校給食のない日々を乗り切ってきた。「感染者が増えているので仕方ないとは思うが、働きながら毎日3食作る負担が軽くなることを期待していたのに……」と給食の中止に落胆を隠せない。

 「ようやく子どもたちと元通り授業ができると思って楽しみにしていたのですが」。市内の小学校の女性教諭も残念がる。近隣の中学校に通う男子生徒の感染が28日に判明し、女性教諭の小学校では29日に3~4割の児童が欠席したという。

 北九州市の市立小中学校は休校の長期化で減った授業時間を取り戻すため、今年度限定で2学期制を導入して長期休暇を短縮することにしている。それでも「カリキュラムを消化できるか不安」と女性教諭。一方で「児童の安心安全を考えると再び休校して様子見した方がいいとも思う」と心境は複雑だ。学校行事も多くが中止になった。「学習以外の行事も、成長に大事な過程。このハンディをどう日常で補えるだろうか」と苦悩は尽きない。

「再開したところで客足が……」

 「テナント募集」の張り紙が目立つ小倉北区の歓楽街・鍛冶町。緊急事態宣言が出された4月7日から休業するスナックの女性経営者(38)は6月1日からの営業再開に向けて準備を進めていたが、感染拡大を受けて再開を見送ることにした。「いつ営業再開できるか予想がつかない」と肩を落とす。

 国の持続化給付金100万円を受給し、そのうち半分はアルバイト7人への給料に充てた。市の家賃補助も受けたが、4月から収入はなく、家賃以外にもカラオケのリース代など必要経費が重くのしかかる。周辺で廃業を決めた店舗は10軒を下らないという。「再開したところで、客足が戻るのはいつになるのだろうか」とつぶやいた。

 ラウンジや居酒屋、スナックを経営する藤田貴大さん(33)は、福岡県が北九州市内の接客を伴う飲食店については休業要請を延長すると決めたことなどを受け、6月1日に予定していたスナックなどの営業再開時期を再考している。「収入が減り家賃を払えなくなっている従業員もいるが、要請を無視して店から感染者が出れば店は廃業せざるを得ない。毎日状況が変わる中で、従業員を守るための選択は何なのか考えたい」【宮城裕也、松田栄二郎、成松秋穂】