米、香港優遇見直し焦点に 金融・貿易地位揺らぐか

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トランプ米大統領がどこまで踏み込むのかが焦点だ(28日、ワシントン)=ロイター

【ワシントン=永沢毅、香港=木原雄士】トランプ米大統領は29日、中国への米国の対応措置について発表する。中国が香港への統制強化を決めたのを受け、制裁を含めた対応を明らかにする可能性がある。米国が一国二制度に基づく「高度な自治」を前提に香港に認めてきた優遇措置の見直しに踏み込むかどうかが焦点だ。ヒトやモノの流れに打撃を与えれば、アジアの金融・貿易のハブとしての地位が揺らぐ。

中国が香港国家安全法の制定を決めたのを受け、トランプ政権は香港が「高度な自治」を維持できていないと判断。香港の優遇措置は継続困難との見解を米議会に伝達した。

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優遇措置は主に関税と査証(ビザ)発給の2つがある。

影響が大きいのはビザ発給の見直しだ。香港には米国企業約1300社が拠点を構え、アジア全域を統括する機能を持つケースも少なくない。香港在住者は中国本土と比べて簡単に米国ビザを取得できる。香港から米国への渡航者は2019年に15万人に上った。人の往来が制限されれば、企業活動に打撃になる。

貿易への影響は複雑だ。米国は「香港政策法」で香港を「経済・貿易面で(中国本土とは)別の地域として扱う」と明記し、対中制裁関税を適用していない。

ただ、香港から米国への輸出額3040億香港ドル(約4兆2千億円、19年)のうち77%は中国本土から香港を経由して米国に向かう再輸出だ。大半は原産地が中国だとして、すでに制裁関税の対象になっているとみられる。輸出に占める米国向けの割合は約8%で、米国が関税を上げたとしても「マクロ経済への影響は大きくない」(英調査会社オックスフォード・エコノミクス)。

一方、米国から香港への輸入額は2129億香港ドルで、電子機器などが多い。軍事技術に転用可能な半導体などを香港経由で仕入れる中国企業が多い。米国が香港への輸出管理を厳しくすれば、こうした取引に影響が出る。

「香港と中国を決済ネットワークから締め出すべきだ」(中国に関する現在の危機委員会)。米国の保守派の団体には、国際的な資金決済のネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)の利用停止などを求める声もある。金融制裁に踏み込めば、アジアの金融センターである香港への影響は甚大だ。

香港は金融市場に強みを持つ。新規株式公開(IPO)を通じた企業の資金調達額は18、19年に世界1位だった。仏ナティクシスによると、10~18年の中国企業のオフショア市場での資金調達のうち株式は73%、債券は60%が香港市場だ。香港の金融機能を止めれば世界の金融市場は混乱が必至だ。市場で存在感を高める中国企業への打撃にとどまらず、米金融機関のビジネスにも大きな影響が及ぶ。

香港は北朝鮮やイランと違って、世界経済と密接につながる。香港への制裁は中国企業だけでなく、香港企業や香港で活動する米企業にも影響が及ぶため、トランプ政権は慎重に検討するとみられる。

これとは別に、中国の政府当局者や企業への資産凍結などの制裁なども浮上している。スティルウェル米国務次官補は「対応措置には長大なリストがある」と述べ、経済制裁や中国当局者へのビザ停止などを具体例に挙げる。

米国の対中強硬姿勢は強まるばかりだ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、トランプ政権は米国に滞在する中国人の留学生や研究者のビザの効力の停止を検討している。大学院生ら約3千人が対象になるという。

米議会では中国・新疆ウイグル自治区で少数民族への弾圧に関わった中国の当局者に制裁を科すよう米政権に求めるウイグル人権法案が可決済みだ。