ポストコロナの創薬、研究開発と製造の迅速化図るべき
米スタンフォード大の西村俊彦氏
米スタンフォード大学の創薬研究開発機関である「SLDDDRS」を率いる西村俊彦ディレクターは、新型コロナウイルス感染症よりも感染力や致死率が高い新たなウイルスに今から備えるべきだと警鐘を鳴らす。また、医薬品の研究開発と製造プロセスを両輪で迅速化する必要性も訴える。西村氏は日本のアンジェスなどと協力して、新型コロナに対するワクチンの開発を推進している。
――SLDDDRSとはどのような組織ですか。
「スタンフォード大の医学部麻酔科に設置した、創薬、および医療機器の研究室です。ゲノム(遺伝情報)や再生医療、遺伝子治療などの新たなテクノロジーに加え、IT(情報技術)や(あらゆるモノがネットにつながる)IoT、ビッグデータ分析などを活用することで、(医薬品開発を始める最初の化合物となる)シードから臨床試験、認可までの期間を短縮し、成功率を上げる一気通貫のプラットフォームを構築するのが目的です」
「SLDDDRSのメンバーには米国、日本、中国、台湾、シンガポールの大学や研究機関、企業などが参加しています」
――新型コロナウイルス感染症に関してはどのような取り組みをしていますか。
「日本のバイオテクノロジー企業であるアンジェスとDNAワクチンの開発で協力しています。最近、同社が新型コロナウイルス感染症のDNAワクチンの開発で臨床試験に入るということで話題になりました。アンジェスもSLDDDRSのメンバーで、このネットワークや知見を利用してもらっています」
――創薬の研究や臨床試験に特別なマウスを活用しているとのことですが、どのようなものですか。
「人間と同様の細胞や臓器を持ったマウスです。ヒューマナイズマウスと呼んでいます。それを利用することで、より人間に近い臨床試験が可能になります。これは日本の実験動物中央研究所(実中研、川崎市)と連携して研究しています」
――ヒューマナイズマウスを用いることで、実際に当局の承認プロセスなどの開発期間短縮に結びついた実績はあるのでしょうか。
「アンジェスが開発していた遺伝子治療薬が、2019年に日本で早期承認されました。HGF(肝細胞増殖因子)と呼ぶ細胞を増やす因子を利用して、血流が悪くなっている患者に対して、血管を新たに作る効果をもたらすことが期待されています」
――今、注力していることはどのようなことですか。
「ポストコロナには、新型コロナウイルス感染症よりも感染力や致死率が高い新型ウイルスがアウトブレイク(通常レベル以上の感染増加)する可能性は大きいと見ています。そうした非常事態に、ヒューマナイズマウスを(開発中の薬剤を人に初めて投与する)ファースト・イン・ヒューマン試験および第2相臨床試験で患者の代わりとして臨床試験に活用できるのではないかと考えています」
「もう1つニワトリ以外の大型鳥類を活用することでも開発のスピードアップや、大量生産が図れるのではと思っています。こうした研究と、迅速な開発・製造プロセスの両輪の準備が今まさに必要になっています」
西村俊彦氏
米スタンフォード大学ディレクター。スタンフォード大学医学部麻酔科に設置した創薬を中心とした研究開発機関「Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science (SLDDDRS)」の共同所長を務める。米国、日本・アジアの大学・研究機関、企業との連携に取り組む。東北大学医学部卒。医学博士。専門は胸部外科。シリコンバレーに20年間在住
(聞き手は日経BPシリコンバレー支局 市嶋洋平)
[日経バイオテクオンライン 2020年5月29日掲載]