沖縄県議選告示、県政与党過半数維持が焦点 辺野古移設計画にも影響の可能性

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 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設を巡って政府と県の対立が続く中、沖縄県議選(定数48)が29日に告示され、13選挙区に64人が立候補した。辺野古移設に反対する玉城(たまき)デニー知事を支える共産、社民などの県政与党が過半数を維持するかが焦点で、結果は玉城知事の今後の県政運営や移設計画にも影響を及ぼす可能性がある。新型コロナウイルスへの対応も迫られる中、与野党とも6月7日の投開票に向けて走り出した。

移設阻止の共産・社民、争点化避ける自公

 定数3に県政与党系2人と野党系2人の計4人が立候補し、激しく争う宜野湾市選挙区。「軟弱地盤の発覚で辺野古新基地建設は工費9300億円、(事業完了までの)工期12年。これは宜野湾市の基地負担を12年も放置することに他ならない。絶対に許せない」。社民現職は市の中心部を占める普天間飛行場の近くで第一声を上げ、基地問題への訴えに時間を割いた。

 2018年10月の玉城知事就任から約1年半。政府は18年12月に辺野古沿岸部の埋め立てを始め、埋め立て反対が7割を超えた19年2月の県民投票後も工事を続行する。県は政府との法廷闘争でも敗訴し、玉城知事は公約の「移設阻止」を実現できていないが、政府にとっても埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤が新たな障壁になっている。大規模な地盤改良工事が必要なため、政府は4月に設計変更を県に申請。工費は2・7倍の約9300億円に膨らみ、完成予定も30年代以降にずれ込んだ。

 告示日から街頭に立った玉城知事は「県民投票の結果を顧みず、安倍政権は粛々と埋め立てを進めている。大事な争点の一つだ」と強調。県議選で県政与党が過半数を失えば「移設反対の民意が揺らいだ」とつけ込まれかねないだけに、精力的に支援候補の応援演説に回る。

 一方、宜野湾市区で3期目を狙う自民現職は、第一声で「普天間飛行場の一日も早い危険性の除去は当たり前だ。県が設計変更を認めれば9年あまりで普天間飛行場は撤退する」と訴え、地元候補として移設推進の姿勢を明確にした。

 ただ、政府や自公両党は、沖縄県議選と辺野古移設を切り離し、争点化は避けたいのが本音だ。沖縄では18年の知事選以降、主要選挙で移設反対派の候補が勝利してきた。今回の県議選でも、自公両党を含む県政野党が過半数を奪うのは難しいとの見方が強い。

 菅義偉官房長官は29日の記者会見で、県議選の結果が辺野古移設に与える影響について「移設に関する政府の考え方を丁寧に説明し、地元の理解、協力を得られるようにしていきたい」と述べ、明言を避けた。移設問題に焦点が当たらないよう「県議選とは関係なく移設工事を淡々と進める」(政府高官)、「地方選なので争点は複合的だ」(自民党関係者)と予防線を張り続ける。

 現在の県議会の構成は▽与党26(議長を含む)▽野党18▽中立2▽欠員2。29日は4選挙区で与党系7人、野党系5人の無投票当選が決まり、残りは36議席。自民は今回、公明や中立会派を加えて与野党逆転を図り、玉城知事を足元から揺さぶって2年後の22年秋の知事選で県政を奪還するという青写真を描く。

 しかし、現有4議席の公明は新型コロナウイルス感染拡大で組織戦が難しく、告示直前に擁立を2人に絞った。不手際が続く新型コロナウイルス対策や前東京高検検事長の賭けマージャン問題などの影響で安倍内閣の支持率は低下傾向だ。自民県連関係者は「国政の影響は当落を左右するほどではないが、批判が強まれば自民候補に向きかねない」と懸念を強めている。【竹内望、平川昌範、立野将弘】

コロナで与野党とも党幹部、現地入りできず

 沖縄県内では4月に新型コロナウイルスの感染者が急増。5月に入って新たな感染者は出ていないが、4月の観光客数は前年同月比で9割減で、外国人観光客は本土復帰後初めてゼロになった。近年は観光客の増加によって好調に推移してきた沖縄経済だけに、景況は急速に悪化している。

 そんな状況での選挙戦に有権者の反応はさまざまだ。最近まで中国人観光客らでにぎわっていた那覇市の牧志公設市場。客足は途絶え、土産物を販売する女性店主(77)は「売り上げはほぼゼロ。資金繰りも大変で、選挙のことを考える余裕はない」と話す。一方、漬物店の男性従業員(31)は「国や県の新型コロナウイルス対策に関心がある。命や生活をどう守り、経済をどう回すのか、候補者の話を聴きたい」と語る。

 緊急事態宣言は解除されたものの、感染リスクは残っており、国政与野党とも支援態勢に頭を悩ませる。

 自民党の下村博文選対委員長は告示に合わせて応援に入る予定だったが、地元が反対したために取りやめた。下村氏は29日、党本部で「迷惑をかけても申し訳ないと思い、沖縄入りは差し控えた」と述べた。組織力が強みの公明党も、支持母体・創価学会が感染防止対策で6月末までの集会中止を決め、支持者が大挙して現地入りしての票の掘り起こしは難しい状況だ。

 一方、共産党などは党幹部の現地入りを模索中だが、多くは政府の県をまたいだ移動自粛要請に従って幹部らの現地入りを見合わせている。社民党の福島瑞穂党首も27日の記者会見で「現地入りする状況にはならないかもしれないが、インターネットを通じた応援などを多用したい」と述べた。

 感染を警戒して告示直前まで街頭での目立った活動を控えてきた候補者も多く、SNSでの発信にも力を入れる新人候補は「街を回っても選挙という雰囲気が全くない。知名度を上げるのが厳しい」とこぼす。

 いずれの陣営も投票率の低下を見込んでおり、前回選(2016年)の53・31%から40%前後にまで落ち込むのではないかという厳しい見方もある。自民県連関係者は「どの陣営にとってもマイナスだ」と指摘するが、玉城知事を支援する陣営幹部は「辺野古移設反対の傾向が強い高齢者の足が止まるのが心配だ」と懸念している。【遠藤孝康、浜中慎哉】