広島・平和記念式典、大幅縮小へ 参列者は昨年の1割程度 時間短縮も検討

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 広島市の松井一実市長は29日の記者会見で、広島原爆の日(8月6日)に開く平和記念式典について、「参列者席を昨年の1割程度にする」と述べ、新型コロナウイルスの感染防止のため大幅に規模を縮小する意向を示した。会場の平和記念公園(広島市中区)には例年約5万人が集うが、今回は参列者以外の入場を規制する。

 市によると、2019年は約8000の参列者席を設けたが、密集状態を避けるため最大で880席に減らす方針。このため、市は被爆者や遺族、各国の政府代表ら招待者の人選を急いでいる。来賓らのあいさつを省くなどし、例年1時間ほどかかる式典を短縮できないか検討。6月中にも詳細を発表する。【小山美砂】

被爆体験継承へ 試される発信力と新たな試み

 新型コロナウイルスの影響で、広島市は被爆75年の平和記念式典について、参列者席を2019年の1割程度に減らして入場規制するなど、大幅に縮小して開く方針を決めた。国内外の要人らに被爆地を見てもらい、核兵器廃絶への機運を高める「迎える平和」を掲げてきた松井一実・広島市長にとって、発信力が試される8・6となる。

 秋葉忠利・前市長が核保有国をはじめとする各国に自ら赴き、直接働きかける「出かける平和」を進めたのに対し、11年に就任した松井市長は多くの人に被爆地へ足を運んでもらうことを呼びかけてきた。被爆者と向き合ってその傷痕を目の当たりにするとともに、復興したまちの姿を見てもらうことで平和を訴え、核廃絶への世論を広げようとしてきた。

 この地道な取り組みは、花開いたとも言える。原爆資料館(広島市中区)はフランシスコ・ローマ教皇が訪れた19年度に過去最多の約176万人が入館し、オバマ前米大統領が来訪した16年度の記録を更新した。市内では各種団体が被爆者の講演会を催し、英訳された証言集を手に取る外国人旅行者も多い。

 しかし、コロナ禍が足かせとなった。資料館は2月29日から3カ月の臨時休館を余儀なくされ、被爆者の講演会も中止が相次いだ。核軍縮をテーマとするNPT(核拡散防止条約)再検討会議の延期により海外で発信する機会も奪われ、50カ国以上の批准で要件を満たす核兵器禁止条約の発効も見通しが不透明になっている。

 ただ、新たな動きも生まれた。資料館は映像で被爆資料を解説するコーナーをホームページに設けた。ウェブ上では研究者や若者がNPT体制を議論する会議が公開された。「迎える平和」も「出かける平和」も成立しなくなったいま、被爆体験を継承し、核廃絶を求めるこうした新しい試みは、被爆者というメッセンジャーがいなくなる近い将来に、私たちが何をできるのか暗示している。規模を縮小した平和記念式典でも、将来を見据えたヒロシマの発信力に期待したい。【平川哲也、小山美砂】