売れっ子映画カメラマン今村圭佑が監督デビュー

映画「新聞記者」や米津玄師「Lemon」のミュージックビデオなど話題作の撮影を手がけ、注目を集めている映画カメラマンの今村圭佑(31)が「燕 Yan(つばめ イエン)」(6月5日公開予定)で映画監督デビューした。もともと映画を監督することには「ほとんど興味がなかった」というが、「新しいことに挑戦したい気持ちが高まっていた時期に(監督依頼が)重なった。カメラマンは主観的に撮影対象をとらえるのに対し、監督は作品全体を客観的に見る。異なる仕事だが、機会があれば今後もやってみたい」と意欲をみせている。

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映画「燕 Yan」の場面(C)2019「燕 Yan」製作委員会

映画は日本と台湾南部の都市、高雄を舞台に進む。日本人と台湾人の両親を持ち、日台で離ればなれに成長した兄弟が複雑な感情を抱えながらも再会。自分は何者であるか、というアイデンティティーを見つめる物語だ。主人公・早川燕(つばめ)を演じる水間ロンは、実生活でも中国残留孤児だった父のもと中国・大連で生まれ、大阪で育った。監督や脚本家らとシナリオ準備のための台湾取材に同行し、「俳優と監督の関係というよりも映画作りのパートナーだった」と今村監督。母親役の一青窈も日台出身の両親を持ち、幼少期を台湾で過ごした経験がある。「日本語を話して」と親にねだるせりふや、級友のカラフルな弁当とは違い「家から持参した茶色っぽい弁当を隠しながら食べる」という場面も、さまざまな背景を持つ出演者の実体験を参考にして物語に盛り込んだという。

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今村圭佑監督

日本と台湾の間にある言葉や文化の違いだけでなく、台湾語や中国語を話す人や、日本統治時代を経験して日本語を話す高齢者ら、台湾社会の中でも言葉などの違いがある。映画ではそれらも丁寧に表現した。「僕も故郷の富山から東京に出てきた人間。アイデンティティーについて考えることは僕にとっても身近な問題だった」と今村監督は語る。

俳優にレンズを向け、彼らの動きを追うカメラマンは「撮影現場で一番熱量のあるところにいる」という。撮影と監督を兼ねた今回の映画では「熱量が上がり過ぎないように抑えつつ、高いテンションを保つ。そのバランスが難しかった」とも語る。外から差し込む光と影の濃さは今村監督ならではの表現だが、それに安住せず「いろいろな手法を使って独自の表現をしていきたい」と話す。

(関原のり子)