京アニへの恨み供述も被害者に謝罪なく　青葉容疑者を逮捕、送検

　「京都アニメーション」第1スタジオ（京都市伏見区）で2019年7月に起きた放火殺人事件で、京都府警は27日、同社社員ら36人を殺害したなどとして、全身やけどで入院中の青葉真司容疑者（42）＝さいたま市見沼区＝を殺人や現住建造物等放火などの疑いで逮捕・送検した。「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」と容疑を認めたが、京アニに対する恨みも供述しており、被害者への謝罪はなかった。事件から10カ月。青葉容疑者は現在も寝たきりの状態だが、府警は医療体制が整った大阪拘置所であれば、逮捕・勾留して取り調べが可能だと判断した。

　この日午前7時20分ごろ、府警は入院先の京都市内の病院で逮捕状を執行し、青葉容疑者をストレッチャーに乗せたまま捜査本部がある伏見署まで移送。落ち着いた様子だったという。体調面を考慮し、検察官が捜査本部に出向き、府警は署内で送検した。京都地裁が午後に勾留請求を認め、青葉容疑者は大阪拘置所に移された。取り調べは拘置所で行う。

　逮捕容疑は19年7月18日午前10時半ごろ、京アニの役員と社員計70人がいたスタジオに侵入し、入り口付近でガソリンをまいて簡易ライターで放火。36人を殺害し、34人に重軽傷を負わせるなどしたとしている。

　青葉容疑者は事件直後に現場近くで府警に身柄を確保されたが、全身の9割にやけどを負って京都市内の病院に搬送された。2日後、高度な治療が受けられる大阪府内の大学病院に転院。一時は命が危ぶまれる状態だったが徐々に回復し、11月14日に元の病院に戻って治療やリハビリを続けてきた。

　青葉容疑者は現在も食事や排せつなどで介助が必要だが、会話はできる状態で、府警は取り調べには応じられると判断した。捜査関係者によると、大阪拘置所は介護ベッドが入れられるよう居室や面会室を改修し、医療上の必要性からエアコンを設置。医療スタッフも増員したという。

　今後は容疑者の体調管理とともに、動機の解明が焦点となる。事件直後や11月に病院で行った任意聴取の際、青葉容疑者は「小説を盗まれたから火を付けた」と供述。アニメの原作を公募する「京都アニメーション大賞」に小説を応募したが、京アニは「京アニ作品との間に類似点はない」としている。

　事件直前の数日間、青葉容疑者は複数の京アニ施設を入念に下見し、ガソリン携行缶などを買いそろえており、計画的に事件に及んだとみられる。府警は京アニに恨みを一方的に募らせたとみているが、無差別殺傷事件を起こす動機としては不可解な点もあり、事件当時の精神状態に着目して捜査を進める。

　京アニは、京都府宇治市に本社を置く1981年創業のアニメ制作会社で、「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん！」などの作品を次々とヒットさせた。【千葉紀和、添島香苗】

入院先から介護車両で移送

　青葉真司容疑者は27日午前7時20分ごろ、入院先の京都市内の病院で逮捕状を執行された。ストレッチャーに乗せられたまま、捜査本部がある伏見署まで介護車両で移送。体調の急変に備えて医療スタッフも同行し、府警の車両が前後を挟んで警戒した。

　午前8時過ぎ、署の裏口に到着すると、横たわった青葉容疑者はゆっくりと降ろされた。髪を短くした青葉容疑者の顔や腕にはやけどの痕が生々しく残り、署に入る直前、報道陣に視線を向けた。

　その後、勾留手続きのため京都地裁に立ち寄り、医療設備の整った大阪拘置所に移された。【澤俊太郎、榊原愛実】