ポストコロナの世界:米中の
by 会員限定有料記事 毎日新聞新型コロナウイルス感染拡大で改めて鮮明になった米国と中国の対立の行方について、米国の歴史学者ニーアル・ファーガソン氏に聞いた。
私は1年以上前に「米中間の新冷戦が始まった」と主張した。関税発動の応酬が続いた貿易にとどまらず、情報技術や人工知能、半導体分野にまで広がる両国の対立だ。今回のコロナ危機では、感染拡大の責任論を巡って対立を深めた。中国の(強圧的な外交姿勢を指す)「戦狼外交」は世界中で反発を招き、私の主張に懐疑的だった人たちが今は賛同している。冷戦状態は今後さらに悪化するだろう。
冷戦の核心は、超大国間の「技術的競争」だ。米ソ冷戦では核兵器や宇宙開発、コンピューターといった領域でスパイ戦が繰り広げられた。現在では知的財産の盗難・侵害と呼ばれるものだ。対立は「6G」(第6世代通信規格)や人工知能、量子コンピューターなど新たな領域に移ろうとしているが、「二つの科学的権威の争い」という冷戦の本質は不変だ。
米ソ冷戦下で起きた朝鮮戦争やキューバ危機のような「周辺衝突」が米中間で起きる可能性は低い。人民解放軍は米軍と対峙(たいじ)するレベルに到底ないし、核兵器保有数でも大差があり、ブリンクマンシップ(瀬戸際政策)も機能しない。情報やサイバー、宇宙といった武力衝突ではない「純粋な意味での冷戦」が先鋭化するだろう。
私は米中間のヒトやモノの往来は大幅に減少するとみている。米中の密接な融合関係「チャイメリカ」が維持できると考えている人たちは、今後、大きなショックを受けることになるだろう。
今日の米中は経済面でも社会的にも密接な関係にあるため「デカップリング(分離)は不可能だ」と言う人たちがいるが、なぜ不可能なのか。相手国を信頼できない地政学的理由があればデカップリングが起こるのは必然であり、それは歴史が証明している。1913年当時、英国とドイツは密接な関係にあったが翌14年末までにすべての商業関係を絶った。新冷戦は、米中が実際に軍事衝突する第三次世界大戦よりは「ましなシナリオ」だ。大戦になれば、完全なデカップリングが一夜にして起こる。
今回のコロナ危機によって、米中どちらがより大きな打撃を被っているか判断するのは難しい。トランプ米大統領に幻滅する人が増え、米国が国際社会での指導力を失っているとの見方が広がっている。米国覇権の終わりを語るのは今、ファッショナブルな言論だ。一方、中国も栄光に輝く状況とは言いがたい。広報外交やプロパガンダ戦はひどく失敗し、特に欧州やアジアで共感を得られていない。むしろ、どちらの超大国が世界をいらつかせ、不快にさせているかを競っているようなものだ。
しかし、トランプ氏の言動や性格から目を離すと、違ったものが見えてくる。空前の金融危機でもある現状で決定権を握っているのはFRB(米連邦準備制度理事会)か、それ…
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