「9月入学で待機児童が数十万人」研究者試算 ひずみ解消ないと移行「困難」

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 新型コロナウイルスによる長期休校を受け、学習の遅れを取り戻すための選択肢として政府が検討している「9月入学制」について、苅谷剛彦・英オックスフォード大教授の研究チームが、来年から導入した場合に学校現場などに与える影響を試算した報告書をまとめた。政府が検討しているとされる3案いずれの場合も保育所または学童保育の待機児童が数十万人規模で発生するという。

 研究チームは国内外の研究者やシンクタンク代表ら計7人。次の3案について検討した。①来年9月入学の小学1年に限り、4月2日~翌年9月1日生まれの17カ月分の児童を一斉入学させる②来年9月以降の5年間、1学年を13カ月分の児童にして学年編成の誕生日を1カ月ずつずらしていき、2026年に9月2日~翌年9月1日生まれの12カ月分の学年に戻す③現行の学年編成を維持したまま4~8月に「ゼロ年生」の期間を設けて小学校を「6・5年制」にする。

 地方教育費調査や学校基本調査など政府の公式資料を基に試算した結果、①の「一斉移行案」では、小学校への入学時期が5カ月延びる児童がいるため21年に限って26万5000人の保育所の待機児童が発生し、9月以降は新入生の急増によって学童保育の待機児童が約13万人増える。小1の学級増などで21年は全国で2万2000人の教員不足が発生する見込み。

 ②の「段階的移行案」は、21年に26万5000人の保育所の待機児童が発生する点は①と同じだが、その後も保育所の定員不足は解消されず、23年までの3年間で計47万5000人の待機児童が生まれる。学童保育の待機児童の増加は6000人。少子化が進んでいる地方では卒業生よりも新入生の方が少ないため増加分を吸収できるが、出生数が増えている都市部は学級数を増やさないと対応できない学校が少なくない。特に東京都では教員の需要が高まり小学校の教員採用試験の倍率が大きく下がる可能性がある。

 ③は実質4月入学のため保育所への影響は避けられるが、小学校で1学年増えることで学童保育の待機児童は39万人以上増加する。全国で6万6000人以上の教員が不足し、うち3割を正規採用で補おうとした場合でも17自治体で小学校の教員採用試験の倍率が1倍を切る。

 研究チームの相澤真一・上智大准教授(教育社会学)は「今回明らかになった小学校教育や保育に現れるひずみを解消できなければ、9月入学への移行は難しいのではないか」と指摘する。【大久保昂】

9月入学に関する苅谷剛彦教授らの試算

<保育所>保育所の待機児童の増加分 <学童保育>学童保育の待機児童の増加分

①2021年9月の新入生だけ4月2日~翌年9月1日生まれの17カ月分の児童を一斉入学<保育所>26・5万人(21年)<学童保育> 13・1万人(21年)

②移行措置として、来年から5年間、小1を13カ月分の児童にする <保育所>47・5万人(21年から3年間で)<学童保育> 0・6万人(21年)

③現行の学年編成を維持し、来年以降、4~8月の「ゼロ年生」を設ける<保育所> なし<学童保育> 39・3万人(21年以降毎年)