物価は消費活動を映し出す鏡:なぜ新型コロナで納豆や電子レンジの値段が上昇したのか? データで読み解く (1/3)
コロナ禍による経済環境の変化に伴い、経済指標や株価、為替などの情報に注目する人が増えてきた。物価はモノやサービスの値段という認識の人が多いかもしれないが、実は家計の消費行動を推察するのに重要な経済指標ともいえる。今回は直近の物価情報に基づき、新型コロナウイルスが人々の消費行動にどのような影響を与えたかを見ていきたい。
by 森永康平,ITmediaコロナ禍による経済環境の変化に伴い、経済指標や株価、為替などの情報に注目する人が増えてきた。直近では2020年1〜3月のGDP(国内総生産)がSNS上で話題になっていた。しかし、意外と物価について事細かに注目している人は多くない。物価はモノやサービスの値段という認識の人が多いかもしれないが、実は家計の消費行動を推察するのに重要な経済指標ともいえる。
そのため、筆者はTwitter上で「物価オジサン」として、毎月物価の詳細情報を提供していて、ネット上では「そんなに細かい情報まで公開されているのか」という驚きの反応もよく見られる。今回は直近の物価情報に基づき、新型コロナウイルスが人々の消費行動にどのような影響を与えたかを見ていきたい。
再びデフレに突入する日本経済
総務省が5月22日に発表した4月の『全国消費者物価指数』は、「総合指数」が前年同月比+0.1%と16年10月以来の低い伸び率となった。天候要因で値動きが激しく動く生鮮食品を除いて算出した「生鮮食品を除く総合指数」は同-0.2%となり、16年12月以来のマイナスに。更に海外要因で変動する原油価格の影響も除いて算出した「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は同+0.2%とこちらも低い伸びにとどまった。
この物価上昇率の推移を見ていくと、19年後半から物価の伸びが鈍化しているように思うかもしれないが、この鈍化の実態は見た目以上に深刻なものと受け止めるべきだ。消費者物価指数という経済指標は、世帯が消費する財・サービスの価格変動の測定を目的としていることから、財やサービスの購入と一体となって徴収される消費税分を含めた、消費者が実際に支払う価格を用いて作成されている。つまり、19年10月に実施された消費増税による価格上昇というかさ上げがあるにもかかわらず、この状態ということだ。
ちなみに、総務省は消費税率引上げ及び幼児教育・保育無償化の影響を品目ごとに機械的に一律に調整した「消費税調整済指数」も公表していて、そちらでは総合指数は前年同月比-0.3%と、既に消費者物価指数の総合指数の段階で物価は下落していることになっている。
コロナへの備えとデマによる買い占め?
それでは、本題である消費者物価指数の内訳から消費者の行動変化を読み解いていこう。新型コロナウイルス問題は20年の年明けから時が経(た)つにつれて影響が拡大していったため、年明けからの4カ月分をグラフ化している。
消費者物価指数は全部で585品目の内訳が公開されているが、まずは食品から見てみよう。納豆の価格が3月、4月と上昇していて、みそも総合指数に比べて高い伸び率を維持している。これは「新型コロナウイルスに発酵食品が有効だ」といううわさの影響で、一部スーパーでは買いだめもみられたからだ。
例えば、納豆では「新型コロナウイルス対策! 天然藁納豆にウイルスは勝てない! 納豆に含まれるペプチドは肺炎の起因菌の膜を破壊します!」という表記が確認されたものの、消費者庁は効果を裏付ける根拠はないので落ち着いて行動をするように呼び掛けている。
つぎに、保健関連の品目に目を向けると、こちらは買い占めの対象となったマスクが依然として価格を上昇させている。現在は店頭にもマスクが並び始め、転売価格も急落しているようだが、少なくとも4月までは需要超過による価格上昇圧力が強かったことが確認できる。
マスクと同様に買い占めの対象となっていたティッシュペーパーはマスク以上に高い伸び率を維持している。筆者も3月以降は基本的に自宅にいる時間がほとんどだったが、時々スーパーやコンビニエンスストアに買い物へ行った際の感覚で言えば、マスクよりはティッシュペーパーの方が棚にある印象だったものの、物価指数で見るとこちらにも需要超過による価格上昇圧力があったようだ。