コロナ禍対応、100年以上の長寿企業は資金繰りに先手
日本は創業100年以上の企業が3万社以上あり、世界一の長寿企業大国と言える。風雪に耐えて生き延びてきた老舗は、新型コロナウイルス禍にどう臨んでいるのだろうか。最新の調査から、長い業歴で培った信用と蓄積を生かし、資金繰りで先手を打つ老舗の姿が浮かぶ。
長寿企業の調査・研究を手がける一般社団法人「100年経営研究機構」が5月、創業100年を超える全国の企業の経営者にメールでアンケート調査を実施し、95社が回答した。業種は製造が4割、小売りが2割などで、社員数と売上高は中央値がそれぞれ30人、6億円で大半が中小企業となっている。
新型コロナに伴う経営への影響について40%が「売上高が5割以上減少」と回答した。長寿企業は地域に根差して比較的安定した顧客基盤を持つが、外出自粛が地域や業種にかかわらず経営を直撃している。「1割~5割未満の減少」も34.7%だった。
経営環境は厳しいが、資金繰りに苦しむ企業は少数だった。「現在の資金繰りで会社をどの程度の期間もたせられるか」との問いに27.2%が2年以上、32.6%が1年と回答している。「6カ月」も含めると8割の企業が当面の資金繰りにめどをつけている。
東京商工リサーチが4月下旬~5月中旬に実施したネット上のアンケートでは、「現在の状況が続いた場合、何カ月後の決済を心配するか」という問いに対し、中小企業の41.5%が「3カ月以内」と答えている。一般的な中小企業に比べ、老舗に絞った今回の調査では堅実な経営が際立つ。
老舗は時間をかけて手元資金を蓄えているうえ、金融機関と密接な関係を築いているケースが多いようだ。調査で経営判断にあたって頼りにする相手を尋ねた項目では「自社の役員・幹部」(52.6%)に次いで35.8%が「金融機関」と回答した。
静岡県立大学の落合康裕教授は「長寿企業が強いのは、いざというときに時間をかけて培ってきた信頼が生きるから。それが資金繰りに表れているのではないか」と指摘する。調査に応じた関東地方の外食企業は2月末の段階で当面の資金繰りの手当てを終えており、「最悪のシミュレーションでも1年間は雇用し続けられるようにしている」としている。
■危機に接し創業家が前面に
1428年創業の一條旅館(宮城県白石市)は複数の金融機関を活用しながら当面必要な資金を確保した。「新型コロナはてごわいが、焦らずに世界を俯瞰(ふかん)しながら長期戦で臨みたい」という。1805年創業の和菓子製造販売、船橋屋(東京・江東)では会長が「10年に1度は必ずこういう時が来る。皆で協力し合わなければならない」と社内に呼びかけた。危機に接し求心力の強い創業家が前面に出て経営を指揮しているようだ。
関東の食品メーカーはリスクマネジメントとして貸しビルなど本業以外の事業を営んできたことが生きているという。多くの老舗は地域との共生を図る意識も強く、関西の旅館は「連日地元企業と話し合い、町ぐるみでコロナに対応している」と話している。100年経営研究機構代表理事の後藤俊夫日本経済大学特任教授は「風雪を耐えて生き残ってきた企業だけに、その取り組みは他の多くの企業が今後のあり方を考えるうえで参考になる点が多い」と話す。
新型コロナ禍が続く期間について、6割強が「2年以上」と回答しており、長期的な影響を懸念する声は強い。コロナ禍を「社会経済の変化の兆し」と捉える老舗は9割強で、「一時的な出来事」とする見方は8.4%にとどまった。老舗だからと過去にこだわるのでなく、変化を受け入れる傾向が読み取れる。
複数回答で聞いた新型コロナへの対応策も柔軟な姿勢が目立ち、81.3%が「販売方法の変更」に取り組み始めている。SNS(交流サイト)を活用したり、クラウドファンディングの実施を目指すところもある。「生産方法の変更」は36.3%、「新規事業の立ち上げ」は30.8%だった。
時代の変化への対応を怠れば、長寿企業といえどもコロナ禍を乗り切れない。4月には東京・東銀座で152年の業歴を持つ弁当製造会社、木挽町辨松が廃業を決めた。5月には宮城県大崎市で1877年創業の豆腐製造、粟野商店が自己破産の手続きを始めた。後藤特任教授は「長寿企業は培ってきた強みを生かしながら、変化に対応する力がこれまで以上に求められている」と話している。
(日経ビジネス 中沢康彦)
[日経ビジネス電子版 2020年5月25日の記事を再構成]