有事の定時株主総会-監査役(監査等委員)は「重要な後発事象」に配慮しているか?

by

私の本意ではありませんが、多くの上場会社が(予定どおり?)本年6月に定時株主総会を開催する予定のようです。そのような上場会社の場合、ちょうど今頃の監査役、監査等委員の皆様方にとりましては、会計監査人から監査報告の通知を受領して、期末監査の報告会を行い、監査役、監査役会、監査等委員会としての監査意見を形成する時期であります(さらには、監査意見を取締役会に報告する時期でもあります)。

何度も申し上げておりますとおり、(予定どおりに定時株主総会を開催するのであれば)会計監査にも、監査役監査にも(十分な監査資源が投入できないという)不安が残ります。このような有事における株主総会を前にして、監査役(監査等委員)の方々にご留意いただきたいのが監査報告に関する有事特有の内容です。具体的には会社計算規則127条、同128条に規定された「重要な後発事象」に関する記載であります。

上場会社においても、監査役(会)は会計監査の職責を負うわけですが、公認会計士という専門職の「会計監査人」が存在しますので、会計監査人の監査の方法及び内容の相当性を判断すれば足りる、というのが平時の会計監査の姿です。会計監査人は会計専門職が担当しており、監査役さんは(期中において)当該会計監査人と十分なコミュニケーションを図っていますので、あとは業務監査(会381条)と書面監査(同384条)に注力すればよい、というところです。

しかしながら、今年はコロナ・ショック、つまり有事における定時株主総会です。業績を伸ばしている企業もありますが、多くの企業の決算発表で示されているとおり、経営状況の悪化を回避できないまま株主総会に突入します。したがって、会社債権者や株主の方々は、計算書類や財務報告にはどこまでコロナ・ショックの影響が織り込まれているのか、そもそもそれらの書類は本当に信用できるものなのかどうか、高い関心を寄せることになり、当然のことながら開示情報をもとに、財務関連書類の信用性の高さを探ろうとします。

そこで、コロナ・ショックが当年度決算及び翌事業年度の決算にどのような影響を及ぼすのか、ステークホルダーが開示情報から把握することに有用なのが監査報告における「重要な後発事象」に関する記載です。決算日以後に生じた会計事象が今期もしくは翌期に適切に反映されるように、きちんと注記されているか(もしくは今期業績に織り込まれているか)会計監査人がチェックを行い、会計監査人自身が「重要な後発事象」を記載することが可能です(会社計算規則126条2項)。

会社法監査と金商法監査の役割分担ということで、どちらかというと会社法監査は「(書類が適正に作成されていることの)保証機能」が重視されがちですが、「後発事象」に関する記述は(本来は金商法監査が負うべき)「情報提供機能」としての役割を担うものといえます。金商法監査の結果は実務上株主総会の後に出てくるので、会社法監査の結果にも情報提供機能を果たしてもらわないといけない、というところです。

ただ、当ブログ5月12日付けエントリー「株主の出席を禁止してでも6月総会実施?-定時総会は(やはり)完全延期すべき」でも述べましたが、私の予想に反して、決算短信の注記には(コロナ・ショックによる業績への影響について)「重要な後発事象」への記載はほとんど見られませんでした。

事業上のリスクとして、翌事業年度へのコロナ・ショックの影響に関する記述はみられるものの、結局は「コロナ・ショックの影響がそもそも重要性があるかどうかすらわからない」というのがホンネだったと思われますし、会計監査人もこれをやむをえないと判断しているものと推測されます。したがって、会計監査人による監査報告には「重要な後発事象」は記載されないことが予想されます。

ところで、計算書類への会計監査人による意見が監査役(監査役会)に通知されてから監査役監査意見の形成(決算承認取締役会)に至るまで、およそ3週間ほどの期間が経過します。3月期末日には、まだコロナ・ショックの影響がどこまで業績に及ぶのか判明していなかった上場会社も、すでに2カ月弱が経過して、そろそろ業績への影響も判明してくる頃ではないでしょうか。

そこで有事の監査役監査として問題となるのが会計監査人設置会社における監査役(会)の監査報告の中身です。上場会社の監査役(監査等委員の場合は「監査等委員会」)は、(会計監査人による監査報告に「重要な後発事象」が記載されていない場合には)重要な後発事象の内容を監査役等の監査報告として記載することになります(会社計算規則114条、127条、128条、128条の2)。

具体的には、会計監査人が監査報告の内容を監査役や監査等委員会に通知し、監査役等がその監査報告の内容を取締役に通知するまでの間に生じた「重要な」後発事象については、監査役等の監査報告において報告されます。先に述べた通り、会計監査人がチェックをしている決算短信では、ほとんど後発事象が記載されていないので、計算書類に対する会計監査人の監査報告(会社計算規則126条)にも「後発事象」に関する記載がないものが多いと思われます。

そこで「では(会計監査人を監督する立場にある)監査役、監査等委員からみて、御社の今期もしくは翌期の業績に対するコロナの影響はどうなのか」と関心が向くわけです。債権者や株主にとっては情報収集のための重要な機会となります。監査役の場合には、独任制ですから、常勤監査役、社外監査役において「重要な後発事象」の判断が異なる可能性もあります(その場合には、監査役会監査報告に個別意見が付されることになります)。

当社業績に対するコロナ・ショックの影響が判明してきたので、今期の会計監査の修正を求めるべきなのか(会計監査人に対して監査のやり直しや限定付意見を求めるべきか)、それとも翌期の決算に影響を及ぼすものとして後発事象を報告すべきなのか、あるいは(やはり?)「後発事象」は認めるものの、業績に影響を及ぼすほどの「重要性」があるかどうか未だ不明なので記述は控える、とすべきなのか、監査役(監査等委員)が個別判断もしくは協議(監査等委員会の場合は決議)をしておかなければ、監査役、監査等委員の方々は善管注意義務違反に問われることになります。

また重要な後発事象があるにもかかわらず、あえて何らの記載もしないとなれば、当該監査役等の方々は会社法976条6号(株主総会に対する監査役等の虚偽申述)によって過料に処せられる可能性もあります。

したがって定時株主総会において株主から質問を受けた監査役等の方々は、「重要な後発事象の有無、およびそのように判断した理由」について、口頭であっても説明義務が生じます。例年とは全く異なる「有事の6月定時株主総会」を実施する上場会社の監査役、監査等委員の皆様には、監査報告のご準備も含めて、この点十分にご留意いただいたほうがよろしいかと思われます。

なお、会計監査人による監査報告の通知前に、すでに生じていた「後発事象」で、会計監査人が看過したゆえに、その監査報告に記載されていないものについても、監査役監査報告で補充してよいものと解されていますので(「会社法コンメンタール10」216頁片木教授の解説参照)、監査役等の皆様は、会計監査人と意見が相反してでも真剣に検討すべき事項であることを理解しておかれるべきと考えます。