アングル:電車ガラガラ、道路は渋滞 米国の通勤風景にも変化
by ロイター[ニューヨーク 20日 ロイター] - 米国では新型コロナウイルス感染抑止のための外出制限が解除された後、公共交通機関を避けて自動車を使いたいと考える人が増えている。ただでさえ資金不足の交通機関は財政がさらに逼迫(ひっぱく)するとともに、道路渋滞や大気汚染が悪化する恐れもある。
複数の世論調査によると、都市部に住む米国民の中には初めて自動車を購入しようとする人々もおり、新型コロナで打撃を受けた自動車メーカーにとっては追い風となるかもしれないが、都市計画担当者が環境対策の目標を達成する上では難題を突き付けられることになる。
中国でも同様の動きが見られる。制限解除から2カ月たった今も、大都市では公共交通機関の利用者数が危機前を約35%下回り、自動車の購入が増えている。
米フォード・モーター<F.N>のジム・ファーリー最高執行責任者(COO)は、中国ではこれまで公共交通機関で通勤していた高所得の会社員がけん引役となり、価格の高い多目的車の需要が高まっていると言う。
独フォルクスワーゲン(VW)<VWG_p.DE>幹部も、4月最終週の中国販売が前年同期を上回ったと述べた。
中国乗用車協会によると、乗用車販売は4月20日から25日に12.3%も跳ね上がった。
新型コロナを受け、米国の大都市では公共交通機関の利用者が最大95%落ち込んだ。主要交通機関は2022年まで大幅な予算縮小と収支の赤字が続くと予想し、連邦政府に対して3月の経済対策で与えられた250億ドル(約2兆7000億円)に加え、330億ドルの支援を求めている。
イプソスが4月に実施した調査では、公共交通機関を利用していた米国民の72%が、今後は利用を減らすか、安全になるまで待つと答えた。一方、米消費者のうち、自家用車を最大限利用する、あるいはパンデミック(世界的な大流行)前よりも多く利用すると答えた割合は68%だった。
パンデミック前に約550万人が地下鉄やバスで通勤していたニューヨーク市でも、市民は自家用車の必要性を検討している。
子ども5人とブルックリンに住む夫妻は、これまで自動車を所有したことがなかったが、4月初め、ついにホンダのオデッセイを買うことを決めた。「地下鉄を使っている自分たちをすごく誇りに思ってきたが、今は出掛けるのに自動車が一番安全だ」と夫は話す。
ニューヨーク証券取引所や一部の企業は、従業員に公共交通機関による通勤を禁じた。
オンライン自動車販売のトゥルーカーの調査によると、自動車を購入もしくはリースする米国民の8%は、一番の理由として公共交通機関を避けたいからと答えた。
しかし自動車に移行する市民が増えれば渋滞のリスクが高まる。米研究者チームの調査によると、首都圏で4人に1人が公共交通機関から自動車に切り替えると、個々人の通勤時間は最大20分長くなりそうだ。
調査に加わったバンダービルト大エンジニアリング学科のダン・ワーク教授は「当局者らが市民に公共交通機関の安全性を説得できなければ、恒久的なシフトになる」と言う。
公共交通機関の幹部らは信頼を回復するため、アジアや欧州の都市を参考にしようとしている。体温チェックの制度化やフェースカバーの着用義務化、座席やホームで対人距離を確保することなどだ。
発券機からエレベーターのボタン、手すりに至る清掃や消毒の徹底は、すべての交通局によって実施済み。ニューヨーク市では、こうした追加的な衛生対策による年間コストは最大5億ドルに上る。
(Tina Bellon記者)