ベランダで体操、テレビ電話…孤立回避へ復興住宅「つながり方」模索 岩手

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 新型コロナウイルスの感染を防ぐため、支援者による訪問活動や入居者同士の交流が途絶えた災害公営住宅(復興住宅)。自宅にこもりがちな住民にベランダからラジオ体操を促したり、テレビ電話でお年寄りが遠方の家族と連絡を取り合えるようにしたりと、新たなつながり方を模索する試みが始まっている。【中尾卓英】

 高台に8階建ての高層団地6棟が建ち、約230世帯400人が暮らす岩手県陸前高田市の栃ケ沢アパート。約1週間ぶりに雲間から光が差し込んだ24日午前9時前、集会所前に15人が集まった。「テレビばかり見ていると、気がめいる」。ラジカセから体操の音が流れると、参加者は5メートル以上の間隔をとって約15分間、体を動かした。

 先週からは、体操の音をスピーカーで団地全体に響かせる取り組みを始めた。自宅ベランダで手足を伸ばした女性は「十分聞こえる音量だった。集会所前のみんなと一緒にやっているようだし、みんなの様子も分かる」と話した。

 同アパートは入居半年後の2017年3月に自治会を結成。自治会費の集金時に声を掛け合うなど、「孤独死を出さない」をモットーに活動を重ねてきた。だがコロナの感染が全国的に拡大した4月初め、カラオケや手芸などのサークル活動が行われてきた集会所の利用が休止に。集会所で実施していた雨や雪の日の体操も、できなくなった。

 そんな中、間一髪の事態が起きる。4月19日、自宅で倒れていた1人暮らしの80代女性が救出された。3日間応答がないことを心配した住民が、自治会役員の中川聖洋さん(77)に相談し、駆け付けた警察官が発見した。別の復興住宅で暮らす弟(78)は「1日遅れていたら、危なかった」と振り返る。女性は脳内出血だったが一命を取り留め、退院後は高齢者施設に入所予定という。

 4月末、自治会役員が集まり、「つながりが希薄になる」「このままでは自治会活動も衰退する」と外出自粛が続くことの課題を話し合った。復興住宅の自治会に助言してきた岩手大助教の船戸義和さん(41)は「感染の恐れや体調不良から外に出られない人もいる」と、ベランダや廊下からラジオ体操に参加してもらい、安否確認につなげることを提案した。

 中川さんは、市内の店舗でスピーカーを借り、チラシを配布して参加を呼び掛けた。ベランダや廊下に出なくても、スピーカーから聞こえてくる音に合わせて自室で体を動かす人もいるという。集会所の前で参加する人も以前より増えた。手押し車で訪れた同アパート老人クラブ会長の岩崎たみ代さん(89)は「しばらく顔を出していなかったけれど、スピーカーでの呼び掛けがあったので来てみた」と笑顔を見せた。

 一方、大船渡市の復興住宅では、自治会の計らいで、テレビ電話を使ってお年寄りが離れて暮らす家族と連絡を取れるようにする試みも始まった。県内の復興住宅の集会所は間もなく利用が再開できる見通しだが、新たなつながり方は当面続けていくつもりだ。中川さんは「雨降って地固まる。コロナが終息した時、あれがきっかけで家族のようなつながりのあるアパートになったと振り返ることができれば」と期待した。