「これで前向きに」「手放しで喜べない」 緊急事態宣言解除、警戒の中再始動

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 新型コロナウイルスの緊急事態宣言がついに解除された。歓迎の声が上がる一方、「第2波」を警戒する人も少なくない。私たちの日常はどこまで戻るのか。

浅草の商店主、仕入れ再開「やる気になった」

 「一歩前進。気持ちをリセットして店を再開したい」。東京・浅草寺の近くで衣装店を営む大森章二さん(62)は解除を喜んだ。これまで営業を控えていたが、25日は店を掃除し、5月向けに飾っていたこいのぼり柄のタペストリーを七夕の商品に入れ替えた。「もやもやしていたが、これで前向きになれる」

 仲見世商店街で営む煎り豆店を4月下旬から閉めていた太田正登さん(62)も仕入れを再開。「シャッターを開け、商売をやろうという気になった。ただ、人が密集して再び感染が広がっても困る」と複雑な心境も吐露した。

 札幌市の繁華街・ススキノ。狸小路(たぬきこうじ)商店街にある土産屋「たぬきや」の島口義弘社長(56)は「すぐに客が戻るとは思えないが、解除はうれしい。状況が良くなるよう祈りたい」。

 一方、「北海道は解除基準を満たしておらず、手放しで喜べない」と話すのはJR札幌駅近くの「センチュリーロイヤルホテル」営業企画室支配人の蝦名訓(えびなさとし)さん(52)。経営はギリギリの状態が続くが「お客様の不安を解消できるよう、新しい生活様式に合わせたサービスを模索したい」と話した。

テレビ会議活用の男性「時代変わるのでは」

 東京・新橋。「解除」の宣言前だったが、25日のランチタイムには多くの会社員が談笑しながら昼食を取る姿が見られた。

 保険関係の会社に勤める男性(46)は毎日のようにあった接待やゴルフがなくなり、テレビ会議システムなどを活用するようになった。「昭和の価値観だったが、私たちの世代以降はネットになじんでいる。時代が変わるのでは」

 一方、会社役員の男性(63)は「通常の営業ができない。今までと違うことばかりで大変でした」とため息をつく。「解除されても社会が元通りになるわけじゃない。どう変わるべきか、真剣に考えないと」

 さいたま市のJR大宮駅近くを歩いていたのは教育関連の会社に勤務する男性(52)。宣言後は週2回、テレワークをしたが、仕事の量は減ったという。解除後は通常勤務に戻る予定だ。「早く普通の生活になってくれれば」と願う。同市で会社を経営する男性(64)は、取引先のスポーツジムなどが休止し売り上げが大きく減った。現在はテレビ会議などオンラインを中心に仕事を進める。「第2波が来ることも考えて、働き方を変えなければ」

居酒屋店主「店は急に再開できない」

 JR新宿駅近くの飲食店街。臨時休業が大半だが、酔客らが酒を楽しむ店も少なくない。ある居酒屋の男性従業員は「これからもっと人は増えるはず」と期待を寄せる。

 東京都による休業要請の緩和時期が急に決まったこともあり、戸惑う店主もいた。居酒屋「どん底」店長の宮下伸二さん(46)は、月末まで休業する予定だ。「仕入れや従業員のシフトなど、再開のためには、やるべきことがたくさんある。急に店を再開できない」と残念そうだった。

病院幹部「必ず第2波来ると思って準備する」

 宣言が解除されても、医療従事者が置かれた状況は変わらない。

 東京都内の病院幹部は解除について「感染者が減っており妥当と思う」と冷静に受け止める。ただ、感染者は増減を繰り返すなど、予断を許さない状況が続く。人員や資材など医療体制が逼迫(ひっぱく)した病院も多かったが「一番大変だった4月上旬から中旬に比べれば余裕はある。第2波、第3波は必ず来ると思って準備する」と引き締めた。【三上健太郎、土谷純一、菊地美彩、平本絢子、福島祥、林田奈々、李英浩】