エンタメノート:リアリティー「風」番組と匿名中傷の悲劇 女性レスラー急死の教訓
by 毎日新聞人気テレビ番組に出演していた22歳の女性プロレスラーが急逝した。詳しい事情はまだわからない。ただ、以前から言われていた、「リアリティー番組」の作り方と、ツイッターでの匿名アカウントによる誹謗(ひぼう)中傷という二つの問題が重なったのが原因だとしたら、このままにしたらまた同じことが起きる可能性がある。
「笑点」の大喜利キャラは「お約束」
誰もが知っている国民的人気長寿番組「笑点」の大喜利を思い起こしてほしい。司会の春風亭昇太さんは昨年結婚するまで「嫁来ない」キャラでメンバーにいじられまくり、今は新婚キャラでいじられている。三遊亭小遊三さんは泥棒ネタ、三遊亭好楽さんは貧乏ネタでおなじみだ。林家木久扇さんは与太郎のキャラを演じ、林家三平さんは肝心の所で失敗する若旦那、三遊亭円楽さんは物知りのエリートで腹黒キャラ、そして林家たい平さんは元気なお兄さんだ。山田隆夫さんは63歳だが、「座布団運びの山田くん」としてかわいがられている。
ご存じの方も多いだろうが、これは立川談志さんが半世紀前の1966(昭和41)年に番組を始めた時からそうなのだが、古典落語の世界に出てくる横丁の人々のキャラクターを笑点メンバーに置き換えているのだ。
古典落語の世界は、現代人からすれば理想のコミュニティーかもしれない。極悪人は出てこない。与太郎のようなキャラクターも仲間に入れてあげて、町内のみんなが悪口を言い合いながらも肩を寄せあって生きている。
笑点でも、先代三波伸介さんや先代三遊亭円楽さん、桂歌丸さんが司会の時から、メンバーは長屋の大家さんを前にしたかのように、思いっきり悪口を言ってしまう。でもすぐに仲直り。そして、座布団を取り合うはずなのに、必死になっているメンバーなどおらず、座布団を全部取られても、みんなのんきに務めている。
もちろん、笑点メンバーの日常は番組とは違い、「泥棒」でも「貧乏」でも、ましてや「腹黒」でもない。そんな「お約束」をほとんどの人がわかって楽しんでいる。24日の放送でも、昇太さん以外のメンバーは自宅からという初の「リモート大喜利」だったが、三平さんが2問目の途中で席を外している間に3問目に進んでいて、三平さんは問題がわからず困る、という場面があり、笑わせてくれた。
テレビと隣り合わせにある「真実か、演出か、ヤラセか」のあいまいさ
テレビ番組は、昔から現在まで「これは真実なのか、演出なのか、ヤラセなのか」という問題と隣り合わせで進んできた。中でも、世間に知られていない出演者による、台本などがないようなリアルな見せ方をする番組「リアリティー番組」という手法が人気を得てきた。この海外テレビの手法は日本にも持ち込まれ、無名な人が一躍、有名人になることもあった。
ただし、そうした番組がどこまでリアルなのか、という問題も指摘されてきた。撮影されている、というだけで、出演者は既にリアルではない、普段の自分とは違う行動をしてしまう可能性がある。そこに「演出」が加わったとしたら、それはもはやリアルとは言えない。「リアリティー『風』番組」だということになる。
笑点メンバーのキャラを「リアル」と信じている人はほとんどいないだろう。そういう「お約束」を笑点メンバーも視聴者も楽しんでいる。でも、「お約束」がわからないのか、視聴者による笑点メンバーへの誹謗中傷としか思えないようなツイートも見受けられる。
リアリティー番組出演者への誹謗中傷防止策はあったのか
現代はツイッターで誰もが自分の言いたいことをつぶやける時代。だが、批判と誹謗中傷は違う。そして、いくら匿名でつぶやいても、タレントのスマイリーキクチさんへの誹謗中傷事件のように、加害者と認められれば摘発される。
ツイッターは番組宣伝に使われることも多い。だから出演者が自分の番組を宣伝することもできる。便利になった一方で、視聴者らが出演者のツイッターアカウントに直接、番組を見た感想、意見を送ることもできるようになった。もし、出演者に対し誹謗中傷の書き込みが続いたらどう防ぐのか、対応はできていたのだろうか。関係者の検証は必須だ。【油井雅和】