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補正予算で、帰国者向けの宿泊場所として改修する予定の国立オリンピック記念青少年総合センター。新型コロナウイルスの影響で、利用を休止している=東京都渋谷区で2020年5月21日、木許はるみ撮影

その事業、いま必要? 不要不急な政府「緊急経済対策」の実態 新型コロナ

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 「新型コロナウイルス緊急経済対策」と銘打ち、26兆円近い巨費を盛り込んだ補正予算が4月末成立した。だが中身をよく見ると、新型コロナとどんな関係があるのか、首をかしげる項目が並ぶ。医療現場が資材不足に悩み、日々の生活にも困る人が多数いる中、その事業は本当にいま必要なのだろうか。取材内容を3回にわたって紹介する。【木許はるみ/統合デジタル取材センター】

 4月末に成立した2020年度第1次補正予算は、事業規模で117兆円にのぼる緊急経済対策の財源となるものだ。「117兆円」は、国の補助を受けて民間が実施する事業や、政府系金融機関による融資なども含めた総額。実際に政府が支出する金額が、補正予算に盛り込まれた歳出25兆6914億円である。財源は、全額を将来国民が返済する国債(借金)で賄っている。

 この補正予算案の国会審議にあたって批判の的となったのが、経済産業省や国土交通省が盛り込んだ「Go Toキャンペーン」と呼ばれる事業だった。その金額は実に1・7兆円。新型コロナ収束後の「経済V字回復」を狙って、観光や外食費用の一部を補助するという内容だが、外出自粛が続く中で「優先順位が違う」と野党やメディアからの批判を集めた。

 だが、こうした不要不急に見える事業や、そもそもコロナとの関連性がにわかに理解できない事業は、Go Toキャンペーンばかりではない。調べてみると気になる項目が次々と出てくる。

 最初に目に留まったのが、国交省が177億円を投じる「インフラ・物流分野等におけるデジタルトランスフォーメーションを通じた抜本的な生産性の向上」という事業だ。事業名だけでは、何をするのかさっぱりわからない。大臣官房技術調査課に聞くと、「公共工事の作業をデータ化し、遠隔で作業ができるようにする」ことが目的だという。ちなみに新型コロナとの関係は「コロナを契機に、リモート・非接触に対応するため」とある。

 具体的には7項目あり、国交省の設備を改修して、企業がデジタル技術を学ぶための育成センター▽最新機器を体験・実証する「ロボティクス実験フィールド」▽「データセンター」――などを整備する。詳しい予算の振り分けは明らかではないが、大半はこれらの施設の改修費と物品購入の費用に充てるようだ。それぞれの施設で具体的に何の機械を購入するかは、「検討中」だという。

 実験フィールドのイメージは、例えば、新しい公共工事のスタイルを「VR(仮想現実)で体験してもらう」ことなどを想定している。何に一番費用がかかるのかは、「施設ごとを(次世代通信規格である)5Gに対応したネットワークで結ぶので、その費用だと思われる」とあいまいだ。新型コロナに伴う外出自粛で自営業を中心に廃業が相次ぐ中、未来の工事手法を「仮想現実」で体験するシステムが緊急に必要なのだろうか。

 7項目の中には、「『地域の守り手』である熟練技能のビッグデータ化」というものもある。熟練職人が型枠や足場を組む作業のノウハウや手順をデータベース化し、作業を効率化する事業だという。いずれにしても、工事におけるデジタル技術をこれから育成したり、技能を伝承したりしていくという気の長い話のようだ。

 大臣官房技術調査課は「インフラや物流分野のデジタル化、遠隔化、省人化を進めることで、感染症に耐えうる強靱(きょうじん)な経済構造の構築につながる」と説明する。つまり、政府が掲げる「新しい生活様式」が「3密」を避けるように呼びかける中で、公共事業でも人が密集せずに作業できる環境を目指すというわけだ。担当者は、「ITを使って、国民が困らないように公共工事ができる環境構築を加速させることが、コロナで苦しんだ状況に対する責任だと思っている。いつか理解してもらえるような成果を出したい」と語った。

 確かに、公共事業をIT化して効率的に行えるようにすることの長期的な必要性は理解できる。だが、工事や機材の整備をしてその効果が実際に出るのは相当先の話で、「緊急対策」とは到底言いがたい。もともと整備したかった施設や機材を、新型コロナ対策にかこつけて押し込んだだけでは、とどうしても勘ぐりたくなる。

 新型コロナ対策と銘打って、施設や設備の改修、新設を行う事業はまだまだある。環境省が30億円かけて行う「国立公園への誘客とワーケーションの推進」事業もその一つだ。ワーケーションとは、ワークとバケーションを組み合わせた造語。国立公園に滞在してリゾートを楽…

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