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焦点:閑散とする街の診療所、コロナが招く経営悪化 医療の質に懸念

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中川泉

[東京 25日 ロイター] - 新型コロナウイルスへの感染を恐れ、街の診療所から患者の足が遠のいている。緊急事態宣言解除後も患者数が元には戻らず、影響が長期化すれば、コストを意識した診療が一般的となり、医療の質の低下を招く懸念が指摘されている。受診回避による疾患見逃し等で健康状態が悪化するリスクも浮上。 病気に向き合う本来の診療が得られなくなる可能性がある。

<6月にも危機顕在化か、患者数回復見込めず>

「緊急事態宣言が解除となっても、感染リスクを懸念して、当面患者数は元には戻りそうにない」──JR浦和駅からすぐの外科・泌尿器科診療所の山崎利彦院長は、4月の診療収入が2、3月に比べて2割弱減少したという。「駅に近く、当院はまだこの程度の減少で収まっているが、住宅街やオフィス街の診療所はもっと減少している」という。

東京保険医協会の調査によると、都内の診療所1200件以上のうち、4月上旬に診療収入が減少した診療所は9割超となり、30%以上減少した診療所が7割を超えた。50%以上の減少も3割にのぼる。

全国を対象とした2900件の状況では、4月月間を通しての保険診療収入が減少したとの回答が8割超、30%以上の減少は3割以上を占めた(日本保険医団体連合会の調査)。

収入が減っても固定費の割合が高い診療所では、経営的に非常に厳しい状況だという。看護師や事務員、技師などの人件費、さらに機材や賃料などを合わせて平均的な固定費は、もともと収入の5-6割を占める。収入が3-5割減少すればぎりぎりの経営状態となる。

都内のある眼科医の院長は「家賃や光熱費を払うと赤字だ」と打ち明ける。「昨年リフォームしたため借金が増えた。患者の減少により資金繰りに困っているが、公的保障の対象にならない」という内科の開業医も。新宿区のある内科診療所の院長は「閉院も検討中」と漏らす。感染回避行動が本格化して以来、特に小児科、耳鼻科、内視鏡を扱う診療科での患者減少が目立つという。

患者数が大幅減少した4月の診療報酬は6月が支払い月となる。そこで診療所の経営危機が顕在化するとの指摘もある。

<コスト意識の診療で質低下も>

コロナ患者を受けている診療所や病院では、人材も病床もそこに集中する必要があり、他の患者の受け入れを制限してきた。その分、稼働率が低下し経営の悪化が目立っている。これを受けて政府も前向きに取り組む姿勢を示し、コロナ診療で収入が減少している医療機関への支援措置が、検討の遡上に上がっている。

一方、コロナ患者を受け入れていない小規模な診療所の患者減少による経営悪化については、日本医師会や日本病院協会などが5月1日、厚生労働省に支援要請を提出。本来は地域医療構想や在宅介護に充てる予定だった基金を診療所支援に使えるよう柔軟な対応を求めた。

全国保険医団体連合会でも、コロナウイルスに伴って患者の減少した診療所に国が減収分を補填するよう求めている。

日本医師会の中川俊男副会長はロイターの取材に対し、「病院・診療所の経営問題は、コロナウイルス患者を受け入れている医療機関の問題だけではない。それ以外の診療所なども含め、日本の医療提供全体の問題になってくる」と警告する。「今後、診療所が経営を維持するためには、看護師などの人件費を削減したり、機器の購入が困難になったりしかねない。経営を気にしながらの診療は医療の質を落としかねない」と懸念を示す。

<コロナ禍による疾患増加は必至>

緊急事態宣言に伴う国民の受診回避は、将来の疾患の急増につながる可能性が高い、との指摘も浮上している。

全国保険医団体連合会の理事も務める前出の山崎院長は、コロナ患者受け入れ病院が不急の入院や手術の受け付けを取りやめたほか、全国で健診や受診を控える動きが出ていることで、疾病の見逃しが生じていたはずだと指摘する。

特に乳幼児の場合はワクチン接種や定期健診が1カ月遅れただけで重大な疾患見逃しリスクが懸念されるという。訪問診療や老人ホームへの回診、デイサービスの減少も、ケアが必要な高齢者の歩行機能低下や体調悪化の急増につながる可能性がある。

診療所や病院の機能維持や経営支援は、コロナ以外の疾患や健康悪化が懸念される局面でこそ、重要な課題ともいえる。コロナ禍での医療崩壊は、我々の身近な医療環境をめぐる様々な面に及ぶ可能性があることを、念頭に置く必要もある。

(編集:石田仁志)