現物あれば完璧に再現 大阪市の板金加工職人
匠と巧

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現在は手に入らない自動車の部品(左)を再現=大岡敦撮影

「これと同じ部品を作ってほしい」――。図面はなく素材も不明、持ち込まれるのは現物だけ、といった悩ましい依頼に応える町工場の職人がいる。豊里金属工業(大阪市)の岩水建二社長(48)が請け負うのは、企業の試作品作りだ。板金を加工して作れるなら、1センチ未満の銅の端子から2メートル近くに達する70インチテレビのバックパネルまで断らない。ものづくり系スタートアップとも連携し、世に出る前の商品に黒子としてかかわっている。

東淀川区の住宅街に10人が働くこぢんまりとした工場がある。外から2階を見上げると日本画のように加工した金属板が目に入る。中にはエアコンの部品や2層構造の鍋、超精密な鉄道模型など今まで作ってきた品がずらりと並ぶ。

板金を曲げたり溶接したりして、企業が求める試作品や部品を岩水さんは20年ほど作ってきた。アイデアが製品として実現可能か、大量生産に向くかなどを、試作品作りを通じて見極め伝える。必要なら曲げや絞り加工用の金型も自作。少数の試作品を短期間、低価格で作るのが強みだ。

「よその会社でできないようなことを、頭を使い実現するのが誇りで楽しい」と岩水さん。大手家電メーカーからの注文も多い。

作業は図面作りから始まる。3次元データで届く注文は理解しやすいよう2次元に落とし込む。時間も費用も抑えられる手作業を優先するが、必要な時は金型を作る。ワイヤで切るか専用の機械で滑らかに削るかなど、「金型作りを考える工程が一番難しい」。

材質やネジの太さなどが分かれば、細かな寸法を図面に記さなくてもいまや試作品を素早く作り上げられる。岩水さんは大阪府から「なにわの名工」に、大阪市から「大阪テクノマスター」に選ばれるほどだ。

ものづくりの世界に飛び込もうと決めたのは高校生の頃。工業高校に技能五輪に出場した先輩が講演に来たことがきっかけだ。

卒業後はコピー機の試作品の板金加工を手がけ、別の会社でトンネル掘削機の部品を設計していた頃、豊里金属の前社長から声をかけられ試作品作りの道に入った。今では自ら職業技術専門学校に出向き講演をするなど、未来への技術継承にも取り組む。

手がけるのは試作品だけではない。販売を終えた自動車の部品を渡され、複製を求められたことがあった。「一目見れば何の素材を使っているかわかる」と1週間で完成。さびた部品をステンレスの素材に切り替える気配りも忘れない。

納期が1日しかないこともあった。輸入していた手術用の器具が税関で止められ、歯科医から手元にある現物をもとに同じ物を翌日までに作ってほしいと頼まれたのだ。用途もサイズも、作る品は日々変わる。

最近では大阪市にある町工場の連携拠点「ガレージミナト」に足を運び、ドローンのガソリンタンクの試作にも携わった。開発者のアイデアを実現し、どんな商品も再現する。「悩みながらものを作るのが好き」。依頼を待つだけでなく、新製品を生み出す現場に自ら積極的にかかわってもいる。(高崎雄太郎)