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捕手兼任監督を務めた南海時代の野村さん【拡大】

【江本が語るノムラの記憶】「相手の何倍も攻略法を練った」その自信とゆとりが財産に

 幅広い目線と、奥深い視点で、野村さんの右に出る者はいない。

 試合前のミーティング。例えば阪急3連戦。ホワイトボードに相手オーダーが記される。

 「第1戦先発、江本。左打席に1番・福本豊。プレーボール。初球、何を投げる?」「真っすぐです」

 「なぜや」「データ上、福本は99%、初球を見送りますから」

 「ストライクを取るんやな」「打ってきませんから、真ん中あたりに」

 「では、1ストライク。2球目は」「少々ボール気味で、外角へシュート系です」

 「2ナッシングと追い込んだら? またはそれがボールになったら?」

 延々と問答が続く。何千、何万通りの配球の組み合わせから、打ち取る方策を探っていく。

 私が6イニング分をやったあと、残る3回分を、第2戦、第3戦先発の山内新一、西岡三四郎が引き継ぐ。試合前に、3時間も4時間も。“完全試合達成”にたどり着いたら、終了だ。

 今では、これほどのミーティングをするチームもないだろう。しかも、あくまで頭の体操。いざ本番になるとチャラ。机上の計算通りに事は運ばない。

 自分たちは、これだけ準備した。お前たちの何倍も、攻略法を練った。その自信とゆとりこそが、財産になっていた。

 春季キャンプのブルペンではしばしば、捕手を務めさせられた。

 「投手がマウンドから見て、ストライクだと思っても、捕手のミットに収まるとき、ボール1個分、外れていることがある。そこを知っておくように」

 真の制球力とは何ぞやを、身をもって学んだ。

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