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石鎚黒茶の栽培農家を訪ね、技術を学ぶ西条農高の生徒(右)=同校提供

幻の「石鎚黒茶」伝承で愛媛・西条農高が力 新技法を切り開き、地域づくりで高評価

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 西日本最高峰の石鎚山北麓(ほくろく)=愛媛県西条市=で古くから作られてきた幻の「石鎚黒茶」の伝承に向け、高校生が大きな力を発揮している。県立西条農高=同=が学校を挙げて取り組んできた「石鎚黒茶伝承プロジェクト」を紹介するプレゼンテーションが11日、同県四国中央市で開かれた「第2回高校生による歴史文化PRグランプリ」で最優秀賞に輝いた。同プロジェクト関連では「愛媛大社会共創コンテスト2019」奨励賞、「えひめ地域づくりアワード・ユース2019」特別賞に続く今年度トリプル受賞となった。

 PRグランプリは、県東部地域の8校13チームが歴史・文化資源で地域を元気にする10分間のプレゼンを競う。西条農高は食農科学、環境工学、生活デザイン科の2年生10人が「新たな令和(じだい)につなぐ西農『石鎚黒茶』文化伝承プロジェクト」と題して発表した。

 発表では、まず「幻のお茶」として日本では2カ所でしか生産されていない「2段発酵」の茶の一つ・石鎚黒茶の歴史と現状を分かりやすく伝えた。

 発表によると、石鎚山麓に伝わる石鎚黒茶は、茶葉を蒸した後、糸状菌(しじょうきん)と乳酸菌で重ねて発酵させる伝統製法。独特の香りと酸味があり、お茶は黄金色に輝く。文化庁から2018年、「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選ばれている。

 だが、「正式に製造しているのは3団体だけで、このままでは大切な伝統文化がなくなってしまう可能性がある」と、危機感も高まっている。校内では16年に「石鎚黒茶伝承プロジェクト」を開始。中世ごろからお遍路さんに振る舞われた茶とされるが、製法の文献はなく、すべて口頭の伝承だった。さらに産地に一定の標高が必要なことなど、伝承には高いハードルもあったという。

 18年の西日本豪雨では同校の農場の苗が全滅する被害があった。排水に問題があり苗が流されたり、根腐れを起こしたりした。そこで生徒らは農場を測量し、傾斜や溝の深さを降水量シミュレーションに基づいて改善した。栽培農家を訪ねて技術を学び続けており、その後は苗が順調に育ち、生産団体に配っている。

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西条農高のプレゼンテーション。商品開発したスイーツや飲み物を若者に提供する寸劇(左)も取り入れた=愛媛県四国中央市で2020年2月11日、松倉展人撮影

 製造面でも新技法を切り開いた。校内の農場は生産団体が1次発酵させている場所より150メートルほど低く、糸状菌の繁殖が難しいことが分かった。そこで蒸し作業で出た枝にも菌が繁殖していると考え、企業に分析を依頼。1グラム中10万個もの糸状菌があることが分かり、枝の活用で2段階発酵を可能にした。蒸し作業で出た枝葉は堆肥(たいひ)として、栄養素と菌を畑に還元するという持続的循環サイクルもつくり上げた。

 商品開発では「伝統を今に伝えるスイーツ」として、県内の調理専門学校と連携し、茶葉を生地に加えたパウンドケーキなども生み出し、ゼリーやババロアも試作中だ。プレゼンでは石鎚黒茶のロールケーキを若者に提供する場面を寸劇で表現。「新たな時代へ石鎚黒茶をつないでいきます。愛する地域とともに」と締めくくった。

 発表した環境工学科2年、菊池凜子(りこ)さん(16)は「若い人にも楽しんでもらえる魅力がある石鎚茶を後輩たちにも伝えたい」、食農科学科2年、行本博司さん(17)は「卒業しても活動を続け、英語を学んで外国の皆さんにもPRしていきたい」と受賞を力としている。

 2年先輩に当たる卒業生、渡部周真さんも在校時の18年に石鎚黒茶の栽培伝承記録をつづり、「毎日農業記録賞」高校生部門で全国の優秀賞に選ばれている。【松倉展人】