春闘、働き方改革と格差是正が焦点

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八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)

【まとめ】

・2020年春闘、働き方改革と格差是正が焦点。

・自動車では総額要求で「脱ベア」の流れ。

・正社員のみならず、非正規社員の底上げ等、今年の春闘は様変わり。

2020年春闘がスタートした。今年の春闘は賃上げだけでなく4月から導入される同一労働同一賃金」に向けた働き方改革や正社員と非正規労働者との格差是正も大きな焦点となる。自動車、電機など主要労組は2月に経営側に要求を提出、交渉のヤマ場は3月の第2週。新型コロナウイルスの影響が懸念される中、集中回答日は3月11日となる。

連合は今春闘で大企業と中小企業の規模間、正社員・非正規社員など雇用形態での格差是正を前面に押し出す。ベースアップ(ベア)要求は「2%程度」を基準とし、定期昇給分2%を含めた賃上げ率の目標は4%と5年連続で同水準となる。

この方針を受け、春闘相場を形成する自動車、電機などメーカー系産業別労組で構成する金属労協(JCM)は「ベア3000円以上」を要求するよう構成組織に指示した。電機連合はこの水準を統一要求としたが、自動車メーカーなどの労働組合で構成する自動車総連は、トヨタ自動車労働組合の妥結ベア額非公開の影響から19年春闘から統一ベア要求額を示せていない。

トヨタ労組は今年もベア要求額を示さず、定昇分や手当を含めた総額で要求、月額1万100円の賃上げを求めたが前年の妥結額である1万700円よりも低い額だ。この要求方法に今年はスバルも追従、日産自動車も総額要求に切り替えるなど自動車では「脱ベア」の流れが進む。

日立製作所の経営トップでもある経団連の中西宏明会長は「業種横並びの集団的賃金交渉は実態に合わなくなっている」とし、横並び交渉や従業員一律の賃上げに疑問を投げかけ、「新卒一括採用」や「終身雇用」「年功型賃金」など戦後確立した日本型雇用の見直しの可能性にも踏み込んでいる。

経団連は今年の春闘で年功賃金だけでなく、能力や業績評価で賃金が決まる「ジョブ型」賃金を導入するよう求めている。日立やトヨタなど世界で戦うグローバル企業は国籍に関係なく優秀な若手人材を確保する必要性が増しているからだ。

この問題への意識は労組側にも芽生えている。トヨタ労組はベアの配分の見直しにも踏み込んだ。人事評価に応じて賃上げ額の差を広げる案を組合員に提示したのがその表れだ。

一方、連合の神津里季生会長は、「非正規雇用の拡大や大企業と中小との賃金格差など、ここ20年で生じた問題がさらに拡大する恐れがある」と大企業が集まる経団連が主張する日本型雇用の見直しには慎重だ。

連合はパート労働者などを含む企業内の全ての労働者を対象にした企業内最低賃金「時給1100円以上」を要求するほか、最低到達水準として35歳(勤続17年相当)で月給25万8000円を示した。最賃の要求金額や給与水準を明記するのは初めてだ。

「同一労働同一賃金」制度は20年4月から大企業に、中小企業にも21年4月から適用される。厚生労働省は正社員と非正規社員の能力や経験が同じなら同等の基本給や賞与を支給するよう求めているほか、通勤手当などの手当や福利厚生も原則として待遇差を認めていない。 

流通や小売りなど幅広い業種が加入するUAゼンセンは組合員の6割近くがパート労働者が占める。4年連続で正社員を上回る賃上げ率を獲得してきたが、同一労働同一賃金導入を追い風に一層の格差是正に取り組む。

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かんぽ生命保険の不適切販売の問題に揺れる日本郵政グループの日本郵政グループ労働組合(JP労組、組合員数約23万人)は、営業手当の見直しで経営側と基本合意した。旧契約から新契約に乗り換えた際の手当を4月からなくし、他の社員と基本給をそろえる。

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現在、かんぽ生命やゆうちょの営業担当者などは郵便局の窓口社員に比べて基本給が12%低い反面、営業実績に応じた手当を受け取っている。かんぽの不適切販売問題を受け、手当の見直しを組合員に提示した。

また、連合の非正規社員の底上げ・格差是正方針と同一労働同一賃金制度に対応するため、月給・時給制の「ゆうメイト」や一般職社員(アソシエイト社員)の処遇改善を提案する。「令和」に入って、正社員のベア一辺倒だった春闘は大きく様変わりしている。