長谷川秀樹の「仕掛け人に会いたい」:顧客行動の8割がいまだ謎、Amazon対抗目指すスマートストア「トライアル」の勝算 (1/3)
購買行動の多くを占める「非計画購買型」をどう可視化していくのか。AIカメラやセルフレジ機能付きスマートカートを導入したスマートストア「スーパーセンタートライアル田川店」の取り組みを聞く。
by 酒井真弓,ITmedia会社勤めを辞め、プロフェッショナルCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)の道を歩み始めた長谷川秀樹氏が改革者と語り合う本対談。今回訪れたのは、2019年11月にオープンした「スーパーセンタートライアル田川店」。AIカメラ、セルフレジ機能付きスマートカート、デジタルサイネージ、電子棚札などを実装した最新のスマートストアだ。
実際に買い物をして最も心地よさを感じたのはウォークスルー決済。プリペイド機能付きポイントカードとスマートカートを用いて専用レーンを通過すれば決済が完了する。ものの15秒だ。
同店を運営するトライアルカンパニー(本社:福岡県福岡市)は、国内に約100名、中国に約450名のエンジニアを擁してリアル店舗のスマート化に取り組んでいる。しかし、トライアルを単に「先端技術を駆使したスマートストア」と捉えると、その本質を見誤ることになるかもしれない。
350台のAIカメラが映し出すもの
「スーパーセンタートライアル田川店」とは、どのような店舗なのか。スマートカートを押して売り場に入ると目に飛び込んでくるのは、天井から降り注ぐかのように設置された照明だ。果物の色あざやかさに思わずカメラを構えたくなる。
死角なく配置されているのは、トライアルのグループ企業であるRetail AIが独自に開発した350台のAIカメラだ。欠品を検知し、品切れによるチャンスロスを減らすと同時に、廃棄率の削減も狙う。将来的には商品の自動発注まで見据えているという。
またAIカメラは、来店客の人数に加え、どの通路を通り、どの棚で立ち止まり、どの商品をカートに入れ、どの商品を戻したか分析することも可能にする。リテールで一般的なPOSデータを使った分析は、あくまでも売れた商品から分析するもので、購買に至るまでの行動や、買わなかった理由を把握するのは難しかった。AIカメラによって、推測の域を出なかったこれらの顧客行動も分析に生かすことができる。
飲料コーナーでは、AIカメラとデジタルサイネージを連動させ、カートや買い物カゴの中身に応じた商品をレコメンドする。トライアルによると、来店客の8割は、買う予定のなかった商品を購入してしまう「非計画購買型」だという。売り場でのOne to Oneマーケティングによって購買意欲の促進を図る。
チラシが見られない時代、ショッピングカートは貴重な顧客接点
スマートカートの使い方はこうだ。欲しい商品をセルフレジ機能でスキャンする。
タブレット上の会計ボタンを押して専用ゲートを通過すれば、プリペイド機能付きポイントカードと連動し、15秒ほどで決済完了する。
買い物中、タブレットには、スキャンした商品に応じたレコメンドやクーポン、現在カートに入っている商品の合計金額が表示される。支払い前に合計金額が分かると節約思考が働き、買い控えの原因になるのではとの見方もあるが、実は、スマートストア化による売り上げ向上は実証済みだ。
「お客さまは、地域の中でもより買い物しやすい店舗を選んで来店してくださっている」と推測するのは、今回、田川店を案内してくれたトライアルの内山智博氏。トライアルがフォーカスしているのは一来店当たりの単価ではなく、心地よい買い物体験を提供することによる来店頻度の増加と、それに伴う売り上げの向上だ。スマートストア化で来店頻度は13%、売り上げは6%向上し、地域でのシェアは20%から26%に向上したという。
スマートストアが目指すのは、メーカーと消費者のマッチング
トライアルは、18年2月にオープンした「スーパーセンター トライアル アイランドシティ店」を皮切りに、2年足らずで17店舗をスマート化、今後約2年で福岡、佐賀の60店舗をスマート化すると発表している。
先に紹介した内山氏は、アイランドシティ店で店長を務めていた。スマートストアの果たす役割について内山氏は、「メーカーと消費者のマッチング」と定義付ける。スマートストアが可視化する顧客行動データをもとに、メーカーと連携して精度の高いマーケティングを実現し、売り上げに貢献する――それが、トライアルの目指すカスタマーサクセスの形だ。