嵐が切り開くJ-POPの未来、サブスク&SNS時代に欠かせない「ストーリー」
昨年デジタル配信開始した嵐の楽曲の数々は、ランキングでも安定したセールスをみせている。SNSでも盛り上がりを続ける嵐の動向から、サブスク&SNS時代に必要なポイントについて、音楽プロデューサーの亀田誠治氏に解説してもらった。
嵐の初デジタルシングル「Turning Up」(2019年11月3日配信)と、「A-RA-SHI:Reborn」(2019年12月20日配信)が、いずれも「オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキング」で好調な推移をみせています。とくに「A-RA-SHI:Reborn」は、嵐と同じく20周年を迎えた『ONE PIECE』とコラボしたMVで大きな話題を集めました。
今回は嵐のサブスクヒットから見えてくる、デジタル時代に刺さる音楽に一番大切なものを考えます。
ご存知、嵐はSNSとサブスク配信を一気にスタートさせました。残念ながらサブスク後進国という立場に甘んじている日本の音楽業界にとって、国民的アーティストがサブスクを解禁し、より多くの人に楽曲を届けていくということは、長らく閉塞感のあった音楽業界に大きな風穴を開ける革命的な出来事と言えます。
ジャニーズのアイドルグループとして「愛されるレシピ」を全てクリアしながら、20年以上活動し続けて最強のエンジンを備えた嵐が、音楽業界の未曾有の転換期において次世代へシフトしたことに、僕は大きな感動と勇気をもらいました。
サブスクは、定額支払えばロングテイルに半永久的にアーカイブが残り、繰り返し聴くことのできるメディアです。そこで生まれるのは「瞬発力」のヒットではなく、「持続力」のヒット。今年いっぱいで活動を休止する嵐は、このタイミングでSNSとサブスク配信を始め、未来へ「嵐」のアーカイブという音楽のタイムカプセルを残してくれたということなのです。
しかもそのタイムカプセルは、スマホさえあればいつでも、どこででも開くことができます。
デジタル時代に刺さる音楽は、その膨大な情報量の中に埋もれないように、イントロのキャッチーさやフックのあるメロディー、過剰なまでのリフレイン、そして打ち込みメインの重低音の効いた音圧のあるサウンドetc....といった様々なアテンションが要求されます。
しかし、実はここまでは今の時代、PCさえあれば誰だってそこそこ到達は可能なのです。それよりも重要なのは、そこで繰り広げられるストーリーです。映像を伴うデジタル時代のストリーミング配信では、「なぜそのパフォーマンスをするのか?」「そのコラボレーションはどうして始まったのか?」など、一つひとつのストーリーが感動を生むのです。
例えば「Turning Up」のMVは、5人を乗せた船上のシーンから始まります。これはデビュー当時、船の上でのデビュー会見を思い出して20年来のファンを胸アツにさせたことでしょう(さらに、船上デビューは昨年亡くなったジャニー喜多川さんのアイデアだったというビハインドストーリーも胸アツです)。
「A-RA-SHI:Reborn」のMVだって、『ONE PIECE』の友情に支えられた冒険者たちのストーリーが、20年にわたって日本のエンタメシーンをけん引した嵐というトップランナーが生むワクワク、ドキドキの感動のストーリーと見事にシンクロするんですね。
僕は昨年末の『第70回NHK紅白歌合戦』での嵐のパフォーマンスから、活動休止というセンチメンタルな気持ち以上に、勇気と元気をたくさんもらいました。国立競技場での映像も、平成から令和にバトンをつなぐというトップアーティストのミッションを感じました。
YouTubeでは、彼らからのメッセージがコメントされています。「改めて、20年応援してくれてありがとう!!!!!21年目もよろしくね(^^)チャンネル登録してねー!!!!!」 しかも英訳付き!こんな言葉を嵐が発信する時代になりました。
嵐が切り開くJ-POPの未来を僕は、ポジティブな気持ちで見つめています。
■嵐が一斉開設した公式アカウント/ツイッター(@arashi5official)、Facebook(@arashi5official)、インスタグラム(@arashi_5_official)、TikTok(@arashi_5_official)、Weibo(@arashi_5)
■亀田誠治プロフィール
1964年、アメリカ、ニューヨーク生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、東京スカパラダイスオーケストラ、JUJU、秦 基博、大原櫻子、アンジェラ・アキ、赤い公園、GLIM SPANKY、flumpool、山本彩などのプロデュース、アレンジを手がける。第49回(07年)、第57回(15年)日本レコード大賞、編曲賞を受賞。04年に椎名林檎らと東京事変を結成し、12年閏日に解散。09年、13年には自身の主催イベント「亀の恩返し」を武道館にて開催。近年は自身が校長となり、J-POPの魅力をその構造とともに解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(NHK Eテレ)』シリーズも大きな反響を呼んだ。14年に、過去12年間分の連載から厳選した本コラムの書籍『カメダ式J-POP評論 ヒットの理由』を発売。19年6月1日、2日に開催した《日比谷音楽祭》では実行委員長として全体プロデュースを行った。