DOCOMO Open House 2020:5G時代には「XRデバイスがスマホに取って代わる」 Magic Leap CEOが描く近未来

DOCOMO Open House 2020でMagic Leapのロニー・アボビッツCEOが、5G時代のMR体験について語った。5Gでは空間を共有する体験が中心になり、企業や個人、医療、ゲームなど、多岐にわたる分野でビジネスが広がるという。商業デザインや訓練で、ヘッドセットの「Magic Leap One」が役立つことも説明した。

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 1月23日に開催された「DOCOMO Open House 2020」の講演で、Magic LeapのCEOであるロニー・アボビッツ(Rony Abovitz)氏が登壇。5G時代におけるMR体験の提供について、同社の考えを語った。

 Magic Leap(マジックリープ)は、米国フロリダ州に本社を置く企業だ。現実世界の映像に仮想世界の映像を表示できるMRヘッドセットを開発しており、2018年8月には「Magic Leap One」のクリエーター向けエディションを発売。2019年4月26日には、NTTドコモからの出資2.8億ドルを含む資本・業務提携が発表されている。

 DOCOMO Open House 2020では、同社のヘッドセット「Magic Leap One」を用いた展示が多数設けられた。

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Magic Leap CEOのロニー・アボビッツ氏

 アボビッツ氏は「5Gがもたらす次世代の『Spatial(空間的な) Web』のことを、私たちは『Web3.0』と呼んでいる。これは体験を中心とした経済を生み、企業や個人、医療、ゲームなど、多岐にわたる分野で相互作用する」と話す。

 モバイルデバイスが中心だった4G時代のインターネットは「Web2.0」や「二次元のインターネット」であり、5G時代のWeb3.0では、インタフェースがXRを中心とした「Spatial」へと移っていく――というのが同氏の見立てだ。具体的には、「現実世界に存在する物体や空間」と「画像として表示されるオブジェクト」がひも付いており、前後の位置関係なども正しく反映されたり、複数人で空間的なデータを共有できたりすることで、仮想世界が日常に溶け込むような体験を指す。

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5GとMRを中心とするインターネットの在り方を「Web 3.0」と表現
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同社はMRヘッドセットの「Magic Leap One」を提供している。バッテリーを内蔵した「ライトパック」を肩から掛け、「ライトウェア」というゴーグル型のヘッドセットを装着して利用する

 Magic Leapのデバイスを紹介したことは、パートナーや開発者、クリエーターに対してSpatial Webの可能性を理解してもらう上で重要だとし、現在は「Magic Leap Two」や「Magic Leap Three」の製造や研究開発に取り組んでいる。「(XRデバイスは)ハードウェアは小さくなる一方で、センシングは強力になり、視野が広がって、屋内外問わずに使えるようになるだろう。最終的にはスマートフォンやタブレットなどに取って代わるものになると思う」との展望も述べた。

 Magic Leapは、2019年6月にベルギーのスタートアップ企業Mimesysを買収し、遠隔地の人が目の前にいるように再現する「co-presence(共存感覚)」ソリューションの開発を進めている。その例として、外科手術で患者の脳を可視化し、タブレットを含めたチームの複数人で映像を共有するユースケースを紹介。フランス企業の「BNP PARIBAS」では、このco-presenceを活用して一部の顧客に不動産を紹介する業務を行っていると紹介した。またアボビッツ氏は、co-presenceによって世界中の企業が共同研究を行いやすくなるとも話す。

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データさえあれば、不動産のようなスケールの大きなものも遠隔地で確認できるという

 他には、商業デザインや訓練においてもMagic Leap Oneが役立つことを説明。例えば、パートナー企業であるマクラーレンでは車両デザインの可視化に、NASAでは国際宇宙ステーションの修理方法を宇宙飛行士に訓練する際に、同社のデバイスを活用していると紹介した。

 アボビッツ氏は「例えば、私がチェスが苦手だとしても、チェスのAIを組み込んだMagic Leapがあれば必ず勝てるでしょう」と述べ、AIを組み合わせることでMRデバイスが「知能の増幅」をもたらすことにも期待を寄せる。

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訓練業務や遠隔アシストでのユースケースについて

 MRでは、ロケーションにひも付いた体験が可能になることも大きな特徴だ。「都市そのものを土台に映画のようなコンテンツを用意したり、自宅でコンサートを再現したりすることも可能」とアボビッツ氏は話す。具体例として「京都の観光名所にサムライの映像を表示すること」を紹介した。

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史跡に歴史上の出来事を重ねて表示するアイデア

 こうした未来を見据える上で、ハードウェアだけでなくプラットフォームの重要性を強調。Magic Leapでは現在、「Magicverse(マジックバース)」という名称でSpatial XR向けのクラウドプラットフォームを構築している。

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「Magicverse」プラットフォームについて、アボビッツ氏は「私たちの目標は、国や場所に縛られず、空間にひも付いたMRコンテンツを展開し、複数のデバイスで見られるようにすること」と語る

 アボビッツ氏は「このようなSpatial Webは、一企業だけでは実現できない」とし、通信事業者による5Gインフラ構築や、デベロッパーの存在の重要性にも触れた。その上で2019年末に発表した「Magicverse SDK」を、数カ月後にリリースすることを改めて紹介した。

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「Magicverse SDK」については、Magic Leap Oneの「Lumin OS」だけでなく、iOS、Androidへの対応することが強調された

 「今米国では、月に数ドルで多くの映画を視聴できることが期待される。一方で、経験経済なら数時間のために数百ドルを支払うこともある」と同氏は話す。その上で「物理的な経験経済には拡張性がなく、その場に訪れられる人数が限られている。しかし、Spatial Webによるデジタルな経験経済は、5Gによって世界中で拡張できる」と、XRと5Gが持つ経済効果についても言及した。

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