厚労大臣として2009年の新型インフルエンザにどう対応したか(4)
by 舛添要一新型インフルエンザに対応したとき、私は、会見でも「情報の重要性」を繰り返し強調している。
「現在、私たちにとって最も重要なことは正確な情報に基づき行動することです。情報をできるだけ迅速に皆さまに提供したい。国民の皆さまも引き続き、正しい情報に基づき、冷静に対応いただくようお願いします」。・・・これは、2019年5月16日に、国内感染での最初の患者が出た際の緊急記者会見での発言だ。
では「正確な情報」とは何か。
私は、厚労省の役人任せにしていては、本当に欲しい情報は得られないと考えていた。それには自分で現場の声を聞くに限る。
そこで、私は19日、国内最初の患者が発生した神戸で陣頭指揮に当たっていた神戸大学大学院の岩田健太郎教授ら、現場を知る複数の専門家を招いて、懇談した。
岩田教授は、30代後半、感染症学の若手第一人者で、の若い医師で、現在の医療や厚労行政に対し、たくさんの疑問を抱えていた。それだけに発言は率直だった。
「重症度を無視して、一律の医療サービスを提供するのは理にかなっていない」
「自然に治る病気(インフルエンザ)に入れ込み、命にかかわる心筋梗梗塞の(ような病気の)治療がおざなりになるのは本末転倒」
「病原体探し」を重視するのではなく、患者の状態を判断し、治療方針を決定すべきだ、と強調した。
他に出席した専門家からも、「多くの人を割いている空港での機内検疫は無駄で、中止すべきだ」など、国の対応を見直すよう求める意見が相次いだ。
これは厚労省側からみれば、耳の痛い意見だ。以前までの厚労省なら、そもそもこういった方々から、話を聞こうとはしなかっただろう。
だが私は、現場で先頭に立っている人でなければわからない話(コアな情報)、視点があると考えた。だからこそ、冒頭、私はこうお願いしたのだ。
「季節性インフルエンザのような対応に変えていいのか、というのが重大なポイントです。岩田教授からは神戸の状況についてもうかがいたい」
実際、厚労省ではこれをきかっけに、新型インフルエンザ対策を転換していく。国内感染が出始めたこともあって、空港での機内検疫をやめた。
5月22日、その方針転換を閣議後記者会見で話したのだが、そのとき、記者の質問に答えてこう話した。
「これ(厚労相の判断)は政治的判断ということであってはいけません。国民の健康を守るために何が必要かというのはあくまで専門家の意見、感染症の専門家、今患者さんを診ている人、こういう人の意見が大事であって、しかも現場の方々の意見が大事であります。
昔ハーバード大学で勉強されていたかもしれないけども、ずっと臨床やってなくて患者さんを診ていない方の意見よりも、私は神戸で患者さんを診てきて治療してきた方の意見を聞きます」
岩田教授には、厚労省改革の中心部隊である、「改革推進室」のメンバーにもなっていただいた。現在の厚労行政に批判的な“敵”を取りこみ、役人からはけっして入ってこない情報や視点を得るためである。