米朝「年末期限」で駆け引き激化 非核化交渉
トランプ氏「敵意示せばすべて失う」北朝鮮、ICBM実験示唆
【ソウル=恩地洋介、ワシントン=永沢毅】北朝鮮が一方的に設定した非核化交渉の期限が迫るなか、米朝の駆け引きが緊迫の度を増している。トランプ米大統領は大陸間弾道ミサイル(ICBM)関連の実験実施を示唆した北朝鮮に対し「敵意を示せばすべて失う」とけん制した。北朝鮮は米国の反応を瀬踏みしながら、譲歩を迫るために意図的に危機を演出する戦術をさらに繰り出すとの見方が強い。
北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長は9日「トランプは朝鮮についてあまりにも知らないことが多い。私たちはもう失うものがない」との談話を発表した。トランプ氏は8日、ツイッターに「金正恩(キム・ジョンウン)委員長は賢明だから、米国に敵意を示せばすべて失うことをよく分かっている」と投稿しており、これに反応した形だ。
北朝鮮は8日、北西部の東倉里(トンチャンリ)にある衛星発射場で「非常に重大な実験」に成功したと発表した。詳細は不明だが、専門家はエンジン燃焼実験の可能性が高いと分析している。ICBMの性能向上をめざす動きには、トランプ氏に対して「譲らなければ約束を破る」という圧力をかける意図が潜むのは明らかだ。
トランプ氏は2018年6月にシンガポールで開いた初の米朝首脳会談の直後に「金委員長が東倉里のミサイルエンジン実験場を破壊すると約束した」と説明した。その後も北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射実験を中止し、朝鮮半島の緊張が緩和したことを外交成果として誇ってきた。
米朝の緊張が再び高まり、対話を始める前の段階に戻ることをトランプ氏は望んでいない。再選がかかる20年大統領選を見据え、有権者に訴える外交面の成果が損なわれるとみているためだ。7日にはホワイトハウスで「金正恩氏が私の選挙の妨げになるようなことをしたがっているとは思わない」と語った。
トランプ氏は「ウクライナ疑惑」を巡って月内にも自身への弾劾訴追の決議案が下院で採決される見通しで、史上3人目の弾劾訴追された大統領となる公算が大きくなっている。内政での行き詰まりを他の分野で挽回し、ウクライナ疑惑から国民の関心をそらす必要性は高くなっている。米朝関係が現状維持ならまだしも、悪化するのは避けたいのが本音だ。
北朝鮮はミサイル以外にも、危機を高めるためのカードには事欠かない。廃棄を宣言して爆破した豊渓里(プンゲリ)核実験場についても復旧可能との見方が多い。韓国軍幹部は10月、国会で「数カ月で復元できる」と指摘していた。米国の研究機関などは寧辺(ニョンビョン)でのウラン濃縮活動が続いている可能性をたびたび指摘している。
米朝が緊張を高めた末に歩み寄れる保証はない。北朝鮮は2月末にハノイで開いた首脳会談が失敗に終わって以降、内部の反発を恐れて、米国に経済制裁の解除などの譲歩を一方的に迫る態度をとり続けている。
「年末」という米朝交渉の期限を引いたのは金正恩氏だ。4月の最高人民会議で施政演説した際に「年末までは忍耐心を持って米国の勇断を待つ」などと述べていた。制裁で枯渇する資金事情や、1年を切った米大統領選をにらみ時期を設定したとみられる。しかし、米朝協議は10月5日にストックホルムで開かれてから一度も開かれていない。
米国側も北朝鮮の強硬姿勢に屈した形は取りにくい。エスパー国防長官は8日のテレビ番組に出演し「私たちは米軍を動かす準備ができている」と語った。軍事力行使の選択肢を排除しない立場を示したもので、北朝鮮を刺激するのは確実だ。今後、米朝が瀬戸際外交を加速させれば、何らかの武力行使に至るリスクも否定できなくなる。